インタビュー

THE KOOKS


 若いことは素晴らしい。そんなあたりまえのことに気付かせてくれる新人がUKから現れた。平均年齢20歳の超新星、クークスが堂々のデビューである。

「目標としていたことを成し遂げたって気がするよね。ブルースやレゲエ、フォーク……とにかく幅広い内容になったと思うよ。だからアルバムの出来には非常に満足しているし、早く次の作品を作りたくて仕方ないんだ(笑)」(ルーク・プリチャード:以下同)。

 デヴィッド・ボウイの曲から拝借したというバンド名(日本語で〈変人/とんま〉の意)とは裏腹に、ファースト・アルバム『Inside In/Inside Out』から聴き取れるサウンドは非常に奥深い。シンプルなロックンロールを基調に、さまざまなスタイルをコラージュして青々しくプリントしたかのようなサウンドは、荒々しくも心地良い瑞々しさを感じさせてくれる。

「デヴィッド・ボウイからは多大な影響を受けたよ。それとルー・リードにローリング・ストーンズ、ボブ・ディランやニール・ヤングも大好き。あとはブルースだね! 父親がブルース・ミュージシャンということもあって、昔から家にはハーモニカやギター、それとバディ・ホリーのレコードがあちこちにあってさ(笑)。だからずっとブルースをプレイしたくて、それでバンドをやっているって感じだね」。

 さまざまなスタイルの新人バンドがブレイクしていることからもわかるとおり、昨今のUKロック・シーンは多様化が著しい。しかしそれは、同時にハイプ視されるというネガティヴな危険性も孕んでいる。

「ルックスは大切だと思うし、それでCDを選ぶ人もいる。でも何よりも音楽が重要なのは間違いないし、少しずつその点を理解できる人が増えてきたと思う。リバティーンズももともとは音楽よりもイメージのほうが先行していたところがあったけど、デビュー作は素晴らしかった。今はまた良いサウンドのバンドが出てきているよね。でもさ、ブルースはそれほど盛んじゃないんだよなぁ(笑)」。

 そんなUKシーンに、新たに〈若さ〉というキーワードが加えられつつある。サブウェイズやアークティック・モンキーズといったハタチ前後の若いバンドが増え、それが確固たるステイタスを築こうとしている。当然彼らもまた、若い輝きを放つ期待のホープに数えられている。

「サブウェイズとは仲が良いんだよ。メンバーがこの先長生きできるという点で、若いってことはいいことだと思う。今UKシーンは凄く盛り上がっているけど、これからはその反動のようなものがあるんだろうね。もしかしたらそれはもうすでに起きているかもしれない。そんななかでも、自分たちがやりたい音楽を自由にプレイしていくことが大事だと思うんだ」。

 クークスは決して〈とんま〉な若僧ではない。地に足の着いたサウンドと力強い意志、そして何より彼らにはまだまだ経験すべき〈伸びしろ〉が、未来に向かってピンと張られている。そのまっすぐな道は、ここ日本にも間もなく届くだろう。

「日本の人たちはお互いを尊重し合っていると聞いたことがあるよ。そして僕はスシが大好きなんだ(笑)! だから日本というと美味しい食べ物と優しい人たちが頭に浮かぶ。あ、そういえば日本の科学者が〈水の結晶〉を研究したって本で読んだんだけど、聞いたことある? 水を入れた器に〈愛している〉と書いた紙を貼って凍らせるときれいな結晶ができて、逆に〈大嫌い〉と書いた紙を貼ると結晶は歪んでしまうんだって。エキサイティングだよね!」。

 新世代UKシーンの進む道は栄光か混沌か、それは誰にもわからない。ただ、〈クークス〉と書いた紙を貼った器にはきっと美しい水の結晶が生まれ、それらはきっとシーンに明るい光をもたらしてくれることだろう。

PROFILE

クークス
ルーク・プリチャード(ヴォーカル)、ヒュー・ハリス(ギター)、マックス・ラファティ(ベース)、ポール・ガレッド(ドラムス)から成る平均年齢20歳の4人組。デヴィッド・ボウイの71年作『Hunky Dory』の収録曲からバンド名を引用して、2003年にブライトンで結成。学校内での活動の一環としてキャリアをスタートさせる。結成からほどなくしてイヴェント〈ブライトン・フリー・バッド〉に出演。2005年にヴァージンと契約し、デビュー・シングル“Eddies Gun”がUKチャートTOP40入り、続くセカンド・シングル“Sofa Song”がTOP30入りを果たす。さらなる話題を集めるなか、2006年1月12日にファースト・アルバム『Inside In/Inside Out』(Virgin/東芝EMI)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年01月12日 18:00

ソース: 『bounce』 272号(2005/12/25)

文/加賀 龍一