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インタビュー

Clap Your Hands Say Yeah


 NYのブルックリンから登場したクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー。“幸せなら手をたたこう”なんて歌もあるけど、このお気楽なバンド名はNYの街角からピックアップされたものらしい。バンドのフロントマン、アレックス・オンワース(発言:以下同)は、こう説明してくれた。

「バンドの練習の帰り道だったんだけど、壁にこの言葉がペンキで大きく書かれてたんだ。NYではこういう楽観的な言葉をあまり目にすることがなくて、なおさら注意を引いたんだよ。ちょうど俺たちにはバンド名が必要だったしね。〈ちょっと軽すぎるかな?〉とも思ったんだけど、俺たちの歌にも、そういう楽観主義と悲劇が共存するということに気付いたんだ。ある種の幻滅や疎外感は持っていてもいい、すべては調和だってことにね」。

 確かに彼らのサウンドには、踊り出したくなるような躍動感と、どこかシニカルでネジレた哀愁がある。疾走感溢れるギター・サウンドを中心に、トイ・ピアノやハーモニカで彩られたファースト・アルバム『Clap Your Hands Say Yeah』は、ルーツ・ミュージックからニューウェイヴまでを吸収して、まるでカーニヴァルのような賑やかさだ。

「考えている音をちゃんと出すこと。そして、そのひとつひとつの音が、正しい理由を持ってそこにあることが重要だ。例えばブライアン・イーノは『Taking Tiger Mountain(By Strategy)』でタイプライターを使っている。身の回りの日用品を楽器の代わりに使ってるアーティストはほかにもいるけど、わざとらしいのが多いんだ。でもイーノの場合は実に効果的だね。俺たちも必要なアイデアだけを使う。“In The Home On Ice”のバックアップ・ヴォーカルが良い例さ」。

 イーノのほかにも、XTCやトッド・ラングレンなど、さまざまなアーティストから影響を受けたという彼ら。アレックのヘロヘロな歌声はデヴィッド・バーンにそっくりなんだけど、ヴォーカリストとして好きなのは、ブラインド・ウィリー・ジョンソンやボブ・ディラン、スモーキー・ロビンソンといったシブい面々で、彼らの「飾らないところが好き」らしい。そうした歌への誠実さは確実にサウンドにも反映されていて、アーティスティックな尖りをスポンジみたいに柔らかな手触りにしているのかもしれない。

「“Clap Your Hands!”のレコーディングは結構楽しかったなあ。ヴォーカル・パートをレコーディングするのに部屋に入ったんだけど、ほかのメンバーは誰一人として、俺が何をしようとしているのかまったくわかってなかったんだ(笑)。で、俺はそこで突然、大声で歌ってみせた。いやー、メンバーの驚いた顔がおもしろかったね。最終的には彼らも気に入ってくれたけど、あれはみんなを驚かせてきたなかでも、うまくいったもののひとつだったよ」。

 まるで冗談みたいなレコーディングだけど、だからこそそこからはピュアなグルーヴがこぼれ落ちる。そもそもインディー・チャートで人気に火が点いた彼らだが、実はアメリカでは、まだどのレーベルとも契約を結んでいない。いまだに自分たちの手でCDを作って、ショップに配送しているのだ。こうしたマイペースさもまた、彼ららしい一面だろう。

「気がついたら自分たちでうまくやれてたのさ。将来のことはわからないけどね。ただレーベルってのは、パートナーであると同時に、バンドにとっての乗り物、つまり手段だと思う。もし目的地まで徒歩で行けるんだったら、高級車とかに乗る代わりに俺は歩くほうを選ぶよ。運動にもなるしね(笑)」。

 そうして、ゆっくりと歩きはじめた5人。でも、文句なしのスタートでしょ?

PROFILE

クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー
アレックス・オンワース(ヴォーカル/ギター)、ショーン・グリーンハル(ドラムス/パーカッション)、タイラー・サージェント(ベース)、リー・サージェント(ギター/キーボード)、ロビー・ガーティン(ギター/キーボード)から成る5人組。2003年頃にNYのブルックリンで結成。2005年6月に自主制作でファースト・アルバム『Clap Your Hands Say Yeah』をリリースし、口コミのみで大ヒットを記録。同年9~10月に全米ツアーを、11月には初の欧州ツアーを行う。年末にはアーヴィング・プラザでのカウントダウン・ライヴにヘッドライナーとして登場する予定。2006年1月18日には『Clap Your Hands Say Yeah』(Clap Your Hands Say Yeah/V2)の日本盤がリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年01月19日 12:00

更新: 2006年01月26日 19:07

ソース: 『bounce』 272号(2005/12/25)

文/村尾 泰郎