インタビュー

Youngbloodz


〈南部が熱い!〉とか急に言い出す輩には〈いままで無視してただけだろ!〉と毒づいてやりたくもなるのだが、2005年にチャートを賑わせたUS南部のヒップホップ・アーティストたちにはいずれも過去の実績やキャリア、地元での絶大な支持という確固たる基盤があり、そのうえで現在の姿があるということを認識していただきたい。そして、ここに登場するヤングブラッズも然り。アルバムを出すたびにそこからヒット曲を放ち、アトランタでは絶大な人気を誇るJ・ボーとショーン・ポールの2人組だ。

 彼らが現在までに収めてきた段階的な成功は、ニュー・アルバムの『Ev'rybody Know Me』にも強く反映され、アルバム・タイトルが意味することにも繋がってくる。「みんながオレたちを知っているから、いろんなコラボをしようと思ったんだ。何百万枚っていうセールスを記録してるヤツらがオレたちとコラボをしたがってるんだ。だから、〈オレたちのことはみんなが知ってるんだぜ〉ってみんなに知らせたかったんだ(笑)」(ショーン・ポール:以下同)という考えから生まれた本作は、アトランタ以外からも強力なゲストやプロデューサーを多く迎え、過去最高の強力作となった。

 表題曲となる“Ev'rybody Know Me”は、前作からの大ヒット曲“Damn!”で誰もが知る存在になりながらも、「相応のリスペクトを受けているかは別問題だ」と考えた彼らが、ゲトー・ボーイズ“Mind Playing Tricks On Me”の歌詞に共感してそこから引用したものだともいう。〈リスペクトを得て、次のレヴェルに自分たちを持っていく〉という心意気を曲中で表わしたのだそうだ。そんな心意気はそのままアルバム全体の意識へと繋がり、“Damn!”も手掛けたリル・ジョンや、Mr.コリパーク、マニー・フレッシュ、ジャジー・フェイなど錚々たる顔ぶれが参加。だが、〈アトランタ=クランク〉といった先入観や偏見は禁物だ。〈クランク〉という言葉についてショーンは「音楽のジャンルだけじゃなく、エネルギーが溢れてる状態を表すのに使う言葉なんだ。凄くハイなヤツがいたら〈お前、何でそんなにクランクなんだ?〉っていう。アトランタではみんなそうやって使ってるよ」と説明するが、そこに止まらないヤングブラッズの音楽が、基本スタンスに〈ポジティヴで楽しい音楽〉を置いているということは、今回のアルバムを聴けば容易に理解できる。例えばMrコリパークが手掛けた“It's Good”などは、イン・ヤン・トゥインズの“Wait(The Whisper Song)”にも通じる、「〈インティメイト・クラブ・ミュージック〉っていう、よりセクシーな音楽なんだ。クラブにいる女の子のための音楽さ。だからT・ボズにも参加してもらった」という新しい試みの曲と言えるだろう。しかも、そういう〈ポジティヴで楽しい音楽〉をめざす意識の奥には、自分たちの影響力の大きさに配慮した、別の大きな意図があるという。

「いろんなドラッグがアトランタにも氾濫してる。特に若者の間では、ドラッグを売ることがクールだとか、そうしないと金持ちになれないと思っているヤツらが多いんだ。でもさ、ドラッグが売れるんだったら、他のビジネスだってできないはずないよな。もっといいビジネスマンになって成功できるかもしれない。俺たちはそういったアトランタを変えたいんだ。もちろんラッパーがライフ・ストーリーを語ることは大切だし、自分が裏街道を生きてきた様子を曲にするのもいいと思うけど、それを聴くと間違った受け取り方をするキッズも出てくる。だから、あえてオレたちはポジティヴにいい音楽を楽しもうっていうスタイルを大事にしてるんだ」。

『Ev'rybody Know Me』を聴いて表層的な部分を短絡的に捉えてはならない。聴き手が彼らの考えを深く理解した時こそ、彼らが願う〈Ev'rybody Know Me〉の本来の意味が伝わる時ではないだろうか。

PROFILE

ヤングブラッズ
共にアトランタ出身のショーン・ポールとJ・ボーによるラップ・デュオ。90年代半ばに活動を開始し、98年にジャーメイン・デュプリの“Jazzy Hoes”に登場して注目を集める。99年にファースト・アルバム『Against Da Grain』でメジャー・デビュー。そこからカットされた“U-Way(How We Do It)”がヒットを記録する。並行してマック10、リル・ジョン、TLCらへの客演で名を上げ、2003年には“Damn!”の大ヒットを生んだセカンド・アルバム『Drankin' Patnaz』をリリース。ニヴェア“Okay”などへの客演を経て、このたびニュー・アルバム『Ev'rybody Know Me』(LaFace/Jive/BMG JAPAN)をリリースしたばかり。2006年1月25日にはその日本盤がリリースされる予定。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年02月09日 21:00

ソース: 『bounce』 272号(2005/12/25)

文/高橋 荒太郎