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インタビュー

BENT FABRIC



 まさに今、世界を席巻しようとしているベント・ファブリックをみなさんはご存知ですか? シングル“Jukebox”が本国デンマークをはじめ、アメリカやドイツなどで大手企業のTVCM曲に選ばれたり、いくつかの映画で楽曲が使用されたりと注目を集めるなか、日本では昨年末にニュー・アルバム『Jukebox』の輸入盤がようやく上陸。そして、このたびその日本盤がリリースされました。一部で大きな盛り上がりを見せ、日本全国にその名が急速に広まりつつあるんですよ! それもそのはず、ファットボーイ・スリムが引き合いに出されるほど底抜けに明るいダンス・ビート、日本人が大好きなピアノ・サウンド、そして7人の才能溢れるヴォーカリストの共演は愉快でしょうがないのだ!

「うん、すごく素晴らしいことだと思ってるよ。この作品は2年ほど前にデンマークでリリースされて、かなりいい結果を出したんだ。2~3か月間に渡ってデンマークの全ラジオ局でもっともプレイされた楽曲にもなったんだよ。その後はドイツでもリリースされて、今度は日本だろ? 素晴らしいよね」。

 そう語るのは本プロジェクトの中心人物=ベント・ファブリック、なんと御歳81歳(!)の現役ジャズ・ピアニスト。50年に自身のレーベル=メトロノームを設立し、クインシー・ジョーンズ、ルイ・アームストロング、マレーネ・ディートリッヒらが彼のスタジオで録音したというから驚き。おまけにアメリカでミリオン・ヒットを記録した“Alley Cat”では、第5回グラミー賞も受賞! そんな彼が今回ダンス・ミュージック・アルバムをリリースしたきっかけはいかに?

「長い付き合いの友人がユニバーサルのプロモーション・マネージャーをやっていて、僕のことをピアニスト/レコーディング・アーティストとしてもう一度手掛けてみたい、って言ってきてくれたんだ。僕は長い間ミュージック・ビジネスに携わってきて、まだまだ現役でやってるし、ツアーもやって自分の楽曲をプレイしてる。だから若いミュージシャンと作品を作るっていうのもおもしろいと思ったんだ」。

 スタイル・カウンシルばりにライトなソウル・フィーリングが心地良い“Everytime”、ホンキー・トンク風のピアノで始まる軽快な“Keep On Rising”など、昔のライヴ・レコーディングに負けない人間味溢れる温もりと懐かしさを持った楽曲が並ぶが、実際のレコーディングはスタジオでのライヴ演奏にループやビートを重ねてミックスを施すという作業で行われた。若手アーティストとの共同作業とはいえ、ライヴ演奏を中心に活動してきたベントさん、失礼だけど年齢のことも考えると抵抗があったのではと勘ぐったのだが、本人はいたって余裕。

「いや、なかったよ。というのも、僕は5歳の時にピアノを弾き始めて……1930年頃のことだね。で、僕はファッツ・ウォーラーを聴いて育ったんだ。ファッツは〈ハッピー・ジャズ・ピアニスト〉でね。だから僕はハッピーな音楽が好きで、このアルバムもハッピーな作品になったと思ってるよ」。

 とまあ、こちらの心配も杞憂に終わってしまう経験豊富で元気なおじいちゃんのよう。ついでにファットボーイ・スリムと比較されている点を訊ねてみると、「いいんじゃないかな。僕は太ってないけどね(笑)。日本人と同じで痩せてるんだ(笑)」と茶目っ気たっぷり。伊達にフィルター・ハウスやドラムンベースまでやってないですよ、このお方! ちなみに、104歳で健在だという母親にも本作は聴いてもらったようで。

「うん、聴かせたよ。〈いいんじゃない〉とは言ってくれたけど、気に入ってはもらえなかったみたいだね(笑)。でも彼女は礼儀正しい人だから本当のことが言えなくて〈いいんじゃない〉とだけ言ったんだ(笑)」。

PROFILE

ベント・ファブリック
1924年12月7日生まれ、デンマークはコペンハーゲン出身。5歳の頃からピアノを弾き始める。ジャズ・ピアニストとして活動する傍ら、50年に自主レーベルのメトロノームを設立。62年に“Alley Cat”をリリースし、ビルボード・シングル・チャートで7位を記録。同曲は第5回グラミー賞〈最優秀ロックンロール・レコーディング〉を受賞している。その後もデンマーク国立劇場などで活動を続ける。2004年にリリースされたシングル“Jukebox”が国内チャートでNo.1を記録。同曲は2005年9月にモトローラ社のTVCMに起用されて、アメリカでも話題を呼ぶ。このたびニュー・アルバム『Jukebox』(Universal Denmark/ユニバーサル)の日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年03月02日 12:00

更新: 2006年03月09日 22:09

ソース: 『bounce』 273号(2006/2/25)

文/青木 正之