インタビュー

Likkle Mai


 日本屈指のレゲエ/ダブ・バンドであるDRY&HEAVY。現在彼らは活動休止中だが、ここしばらくはメンバーそれぞれに独自の活動を繰り広げている。フロントマンとしてバンドの顔となっていたLIKKLE MAIも、アコースティック・ライヴをはじめとする精力的なソロ活動を行いながら、このたびファースト・ソロ・アルバム『Roots Candy』を発表することとなった。まず最初に書いておくと、今作は〈DRY &HEAVYのヴォーカリストによる課外活動〉といった性格の作品ではない。なにしろ、いわゆるレゲエ・フォーマットといえる楽曲はわずかばかりなのだから。

「まさにそのとおりで、DRY&HEAVYと同じことをやるんだったら去る必要がなかったわけで。〈LIKKLE MAI〉という責任を背負ってやっていきたかったから」。

〈去る〉という言葉に引っ掛かるファンもいるかもしれないが……ともかく、次の発言からも、彼女がソロ・シンガーとしての自負を強く持っていることがわかるだろう。

「前から現場でソロ・シンガーとして歌っていたし、DreamletsでもDRY&HEAVYでも、〈あくまでLIKKLE MAI〉というスタンスは変わってない。もちろんDRY&HEAVYを通じて私のことを知ってくれた人も多いと思うけど、バンドの一員でありつつ、自分はLIKKLE MAIというシンガーだという意識はあった」。

 そのような活動のなかでそれぞれのバンドからの刺激を受けつつ、「ソロ・アルバムを出したくてしょうがないっていうぐらい、自分でやっていきたいという気持ちがあった」という彼女。今作はDRY&HEAVYが『FULL CONTACT』を発表した2000年あたりから作り溜めていた楽曲を、自宅で練り上げていく形で制作された。

「制作方法も、できるだけシンプルにしたかった。キーボードも自分で弾いたし、トラック制作も自分でやったんですよ」。

 そのなかで重要なパートナーとなったのが、プライヴェートの伴侶でもある堀口ケイ。

「人はひとりで生きていけないし、たったひとりでは作れなかったから……なんだか照れくさいですね(笑)。昔から、リリースを踏まえてないところで2人でチコチコ作ってたから、その意味ではフレンドリーな感じは出てるかもしれない(笑)」。

 つまりは、日常の延長線上から自然に生まれたアルバム?

「うん、そういう感じはあるね! 生活レヴェルでずっと感じていたことがパッケージになった。だから、自然な感じですよね」。

 冒頭でも書いたように、ここには〈DRY &HEAVYのLIKKLE MAI〉の代わりに、〈シンガー・LIKKLE MAI〉がいる。曲調も全体がバラバラになるギリギリのところで統一性が保たれていて、例えば攻撃的で前のめりなステッパー曲“Why Are You In A Hurry?”とGOMAのディジュリドゥがうねるオリエンタルなヘヴィー・チューン“My Old Flame”などは、一聴すると別アーティストの楽曲のようにすら聴こえるのだ。だが、その振り幅がそのままLIKKLE MAIというシンガーのキャパシティーの広さにも繋がっている、と思えるところに今作の魅力はある。ゲストにはそのGOMA、レインスティック・オーケストラ、2DD(AUDIO ACTIVE)、土生剛(LITTLE TEMPO)らが参加。その一部はLIKKLE MAIの自宅に集まって制作が行われたという。

「(小声で)おもしろいでしょ(笑)? ドラムの音色ひとつとっても楽しみながら、自由にやっていった。誰かのマネとかじゃなくて、ね」。

 ラストを飾るのは、穏やかで温かなヴァイブスに満ち溢れた“あのうみのうた”。ここで歌われる〈あのうみ〉とは……。

「私の故郷の海なんですよ。中学生ぐらいからクレイジーなまでに音楽好きだったし、昔は情報量が少なすぎて田舎にいることを不満に思っていたけれど、この歳になってからその自然の素晴らしさに気付いて(笑)。故郷の自然への感謝、それと親への感謝の気持ちを込めて」。

 94年からマイクを握り続けてきたLIKKLE MAI。実に風通しが良く、隅々までこだわりながら作り上げられたこのアルバムを聴いていると、これまでの活動の集大成とも思えてくるのだが。

「いやぁ、まだまだ。種まきアルバムですね。もっと地に根を張った人になるためのファースト・アルバム」。

PROFILE

LIKKLE MAI
岩手県出身のシンガー。94年よりロックステディ・バンド、Dreamletsのメイン・ヴォーカリストとして本格的な音楽活動を開始。それと並行してソロ・シンガーとしてもラバダブなどの現場でマイクを握るようになる。95年にDRY&HEAVYに正式加入し、現在までに4枚のオリジナル・アルバムを発表。2000年には初のヨーロッパ・ツアーを行う。2004年にバンド活動を休止。その後、アコースティック・ライヴを頻繁に行うなどしてソロ活動を再開する。2005年12月にリリースされたシングル“Why Are You In A Hurry”が映画「カスタムメイド10.30」の挿入歌に起用されて話題を呼ぶなか、このたびファースト・ソロ・アルバム『Roots Candy』(BEAT)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年03月02日 13:00

更新: 2006年03月02日 19:41

ソース: 『bounce』 273号(2006/2/25)

文/大石 始