Ne-Yo
ポスト・アッシャー……ではない。なかなかいい顔つきだし、カッコもまあイマドキだし、歌声も過ぎない程度に甘味があるので、そりゃ女のコたちはキャーキャー言うだろうけど。鮮やかなダンス表現で魅了するタイプではないし、オマリオン君やクリス・ブラウン君のような自分より踊れる〈若いの〉たちと張り合おうという意識も最初からない。が、エンターテインメント志向はバリバリある。誰よりもある。だっておもしろいんだよ、マイアミで彼のステージ(ジョン・レジェンドのオープニング・アクト)を観る機会に恵まれたんだけど、歌の合間に寸劇みたいなのを挿んだりするんだから。ニーヨ、現在23歳。
「オレはアーティストである前にソングライターであると自負してるから、ショウを見てくれてる人たちにも歌詞の内容をちゃんと伝えたいんだ。で、どうやったら楽しませながら歌詞の内容も伝えることができるかって考えて。そうだ、曲の内容に合わせて芝居をしたらどうかって思いついたわけ。いま考えてるのは、アルバム全体の内容を芝居仕立てにできないかなってこと。まだ30分以内のショウしかやってないけど、自分のツアーができるようになったらシアターっぽい作りにしたいと思ってるんだよね。最近のオーディエンスは、そういうエンターテイメントを求めているだろ?」。
そういうものが求められているかどうかは置いとくとして、この発想の仕方は他の若手R&B歌手と異なる彼の個性である。好きなパフォーマーは?という質問への答えも然り。
「サミー・デイヴィスJr、フランク・シナトラ、それにウェイン・ニュートン。彼は決してベスト・ダンサーじゃないけど、ステージに上がれば誰をも魅了しちゃう。そういう人をオレは尊敬してるんだ。もちろんプリンスもね」。
生まれは米国南部のアーカンソーだが、育ったのはショーのメッカ、ラスヴェガス。ああ、なるほど。だからなのだな。
「うん。その影響はデカイだろうね。アーカンソーにいる時は、ダニー・ハサウェイ、マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダーなんかが家でよくかかってて大好きだった。それがラスベガスに移ってからは、オフクロもトム・ジョーンズやウェイン・ニュートンを聴くようになって、オレも好きになったわけ。その両方のいいところをオレは吸収している。いまはR&Bライターってことで知ってもらってるけど、いずれはそのへんをクロスオーヴァーさせていきたいと思ってるんだ」。
そんなニーヨは、「アーティストである前にソングライター」発言からもわかるとおり、まずソングライティングの才が認められて名の知られる存在になった。マリオの“Let Me Love You”を書いたのが彼であり、ほかにもメアリーJ・ブライジからクリス・ブラウンまでさまざまなアーティストに詞や曲を提供。ストックは実に「400曲以上」だそうで、しかも〈恋愛ソング〉〈失恋ソング〉といったふうに種類別に管理してあるという。デフ・ジャムからのアーティスト・デビュー盤『In My Own Words』は、そのなかからジェイ・ZやLA・リードと方向性を話し合いつつ厳選した曲が収められたものだ。
「メロディーと歌詞に重点を置き、アルバム一枚を通して聴けるものにしたかった。クラブ向けの曲をやりたいとは思ってなかったね。この先はもっと拡げていきたいけど、まずはトラディショナルなR&Bアルバムにするってことにこだわってみたんだ」。
詞は実体験に基づいて書いたものばかり。へぇ~、けっこういろんな恋愛してんだねキミは、と唸ってしまいもするが、その視点がなかなかにユニークで、なるほどこうした〈ありきたりじゃない、ものの捉え方〉は、R&B以外にも活かせそう。何かと先が楽しみな人です。
PROFILE
ニーヨ
本名シェイファーC・スミス。アーカンソー生まれの23歳。ラスヴェガスで少年時代を送り、母親がピアノ、父親がベースを演奏する音楽一家で育つ。一方では幼い頃からポエトリーやストーリーテリングに親しみ、詩作の才能を発揮してきた。高校時代には友人とグループで活動していたが、卒業と同時に成功を求めてLAに移り住む。ソングライターとしてメアリーJ・ブライジやB2Kらに楽曲を提供し、なかでもマリオに書いた“Let Me Love You”は全米No.1ヒットを記録している。その後、ジェイ・ZとLA・リードにシンガーとしての才能を見い出され、2005年にデフ・ジャムと契約。3月3日にファースト・アルバム『In My Own Words』(Def Jam/ユニバーサル)をリリースする予定。