AFRA & INCREDIBLE BEATBOX BAND
いま、日本でパッと見ていちばんかっこいいアーティストは誰か?と訊かれたら、ヒューマン・ビートボクサーであり、ヒップホップ・アーティストのAFRAだ、と人は言うだろう。よく考えてみるといい、日本のアーティストでこんなに顔つきがキマッているアーティストは他にいない。そして、彼を中心に啓、K-MOONら3人のヒューマン・ビートボクサーで結成されたAFRA & INCREDIBLE BEATBOX BAND(以下IBB)が、いま日本でいちばんクールなバンドだ、とも人は言うだろう。異論がある人間は彼らのライヴを観るか、このたびリリースされたデビュー・アルバム『I.B.B.』を聴くか、どちらかをしたほうがいい。
「僕らはヒップホップに影響を受けて音楽を作っているんですが、これはモス・デフの言葉なんですけど〈ヒップホップに影響されるんじゃくて、ヒップホップに影響していきたい〉っていうのがあって。そういう姿勢は共通しているなーと思っています。ただ既成のヒップホップらしいものを作るのは、全然フレッシュじゃない。感覚としておもしろいものを作っていく――それはジャンルじゃなくて、アニメでもいいし、なんでもいい。そういうなにかを作ろうしているんですよ、僕らは。(ヒップホップのゴッドファーザーであるアフリカ・)バンバータとかも、いろいろな曲をかけるじゃないですか? ああいう(彼のプレイが生み出す)グルーヴ感がヒップホップだと思うし。もちろん捉え方はいろいろあると思うけど。ただ、〈ラップ=ヒップホップ〉ではない」(AFRA)。
実際、IBBのアルバムには、ロックステディの名曲にしてレベルな奴らの愛唱歌、ダンディー・リヴィングストン“A Message To You, Rudy”のカヴァーが収録されているのだが、そこにもなんとも言えないヒップホップ感が漂う。それを聴いている時、例えば、ブギー・ダウン・プロダクションのセカンド・アルバム『By All Means Necessary』収録の“Illegal Business”さえもが頭をよぎる。この〈ヒップホップらしさ〉を言葉で説明するのは大変難しい。
「ルールは作らないほうがいいものができるな、と思ってます」とAFRAが断言するのは、自信があるわけで、また、多くのアーティストも同じことを言う。しかし、多くのアーティストがつまらない、どこでも手に入るような音楽を作ってしまう。IBBはそうじゃない。彼らがやっているのはゾクゾクするような、新しい経験を聴き手に与えてくれる音楽だ。それは、例えばIBBのステージで、3人がデ・ラ・ソウルの曲をカヴァーした瞬間にエキサイトする自分と、それを共有している周囲に気がつく経験に似ている。それは、学生時代からヒューマン・ビートボックスをやっていた彼らが、いまや多くの海外フェスティヴァルのステージを踏んでいる――そんなリアルさとまっすぐ結びつく。
「学校じゃ、まだ僕のビートボックスは練習段階だったんで、けっこうウザがられましたね(一同爆笑)」(啓)。
こういう音楽が日本を変えていく、と言ったら、謙虚な彼らは冗談で応酬するだろうが、僕はそう考える。世の中には2種類の音楽がある。ひとつは中身のある音楽で、ひとつはからっぽな音楽だ。日本の音楽が世界的にどうしても認知されないのは、単純にからっぽな音楽が多いからで、IBBは違う。
「ムーさん(ムツミ・カナモリ)に話を訊いたら、世界中のフェスティヴァルを周っているみたいで。僕らも世界中に行きたいですね」(AFRA)。
ちなみに、モーリス・フルトンを含めたムーのふたりはIBBの音楽を高く評価しているという。
「ビートボックスとしてはもちろん、楽曲として楽しんでほしいですね」(AFRA)。
もちろん、それが高く評価されているポイントなのだ。
PROFILE
AFRA & INCREDIBLE BEATBOX BAND
AFRA、啓、K-MOONから成るヒューマン・ビートボックス・バンド。AFRAの呼びかけで2005年に結成され、すべての楽曲をヒューマン・ビートボックスのみで演奏するパフォーマンスが評判となり、FIRE BALLの『999 MUSICAL EXPRESS』に参加するなどして話題となる。同年6月、スペインの音楽フェスティヴァル〈Sonar 2005〉に出演、11月にはイアン・ブラウンの全英ツアーのオープニング・アクトに抜擢、さらに2006年1月にはオーストラリアのロック・フェスティヴァル〈Big Day Out〉に出演するなど、海外での活動も精力的にこなす。そしてこのたび、石野卓球、TUCKERなどが参加したファースト・アルバム『I.B.B.』(ISLAND/ユニバーサル シグマ)をリリースしたばかり。