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インタビュー

木村カエラ


「あはははははははは~!」と、カエラちゃんの笑い声からスタート。これは、あなたは順調に〈オモロ・カッコいい〉道を歩んでいる、と告げた時の反応だ。君は“You”のプロモ・クリップを見たか? 彼女のシングル曲中、もっとも切ない情感を漂わせる名曲だが(作曲はASPARAGUSの渡邊忍)、なぜかこれまででもっとも笑える映像作品に仕上がった。カメラを真っ直ぐに見つめつつ熊くんと踊る彼女を眺めながら、シリアスとユーモアを蝶々結びにしてしまう、こんな芸当を自然に楽々と披露しちゃうところがかっこいい!と思った。

「撮影のときはもうおかしくておかしくて。でも必死に我慢して、眼力強めな表情を作ってね。あれは確信犯的ですよ(笑)。(こういうことは)きっとやり続けますよ。でも、ほんとにね、危ない! 放っておくとどんどんオモロくてシュールなほうに進もうとしてて、みんなでいつも〈戻せ戻せ〉ってブレーキをかけてる(笑)」。

 さて、待望のセカンド・アルバム『Circle』の話だが、〈オモロ〉の部分を取り除いて、掛け値なしにカッコいいアルバムとなっている。アップ・テンポの曲はラウドかつワイルドに仕上がり、スロウな曲は内省的な響きを放つ、という傾向の今作は、キュートなガール・ポップ仕様曲が大半を占めていたデビュー作『KAELA』と比べると、ダイナミックな変化があちこちで起こっている印象だ。先行シングル“リルラ リルハ”“BEAT”で着実に表現の幅を広げつつ、ズシンズシンと足音を響かせて大怪獣カエラは前進してきたわけだが、その悠然とした歩みが見事にパッケージされている。

「やりたいことは全部できました。なによりスタートから終わりまで、コンセプトが一度もズレずに進められたことにかなり満足できて」と彼女は言う。コンセプト=〈Circle〉。日常生活や人生の流れのなかでさまざまに作られる、「繰り返しや渦巻き(螺旋運動)」を感覚的に捉え、音楽的に表現してみようと彼女は思いついた。

「“リルラ リルハ”ができた頃、タクシーに乗っていてふと〈毎日って繰り返しだな、あ、Circleだ〉ってなぜか思ったんですよ。それで、寝たり起きたりすること、季節が変わること、お母さんから受けた愛情をまた自分の子供に手渡すこと、すべてが円を描いているけど、確実に先にも進んでいるということのおもしろさとか、いろいろと考えるようになって。で、そういう感覚を出すために、詞や曲に繰り返しを意識して入れた。例えば“BEAT”でも、民生さんにギターのリフやリズムをループさせるように作ってほしいってお願いしたり」。

 前作以上に個性的な参加者が揃った本作。岸田繁(くるり)に吉村秀樹、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers)らは、シンガー・木村カエラのしなやかさを引き出すロック・ナンバーを提供し、大半の曲のプロデュース/作曲を受け持つ曾田茂一は彼女のふくよかさをより拡げる手助けをしている。また、〈カエラ・エレクトロニカ〉な世界を見せてくれる堀江博久、mitoの曲が実に新鮮。彼らとのハッピーなハイタッチが作品の端々から見えてくるようだ。

「集まってくれたみんなの個性と、私らしさをぶつけあうのが好き。だから曲が先で、詞を後に書くようにしてる。デモテープのみんなの鼻歌メロディーにそれぞれのクセがあって、聞こえてくる言葉があるんですね。それを必ず拾って詞に入れる。そうすると、いい具合にぶつかりあっておもしろい混ざり方をする。〈これは岸田くんでもあるけどカエラでもある〉みたいな。そんな絶妙なバランスが働いてることも、(アルバムに)いろんなタイプ(の曲)が揃ってる印象を強めていると思う」。

 彼女がその自己プロデュース能力を十分に発揮して、周りから引き出した頑丈なサウンド。そこに頑丈なハートが合わさって、この大きく強力な〈輪〉が生まれた。そして、クルクルと表情を変えながら天高くまたは地深く、自由自在に駆け回るこの歌声が凄い。美しい円の完成に向けて進む彼女の明日は眩しい。それは、カエラ語録で言えば〈超言わずもがな〉なことなのだ。

PROFILE

木村カエラ
84年生まれ、東京都出身。幼い頃からシンガーをめざす。2002年頃から雑誌モデルやTV番組「saku saku」のMCとして活躍。2004年6月にシングル“Level 42”でデビューし、12月にはファースト・アルバム『KAELA』をリリース。2005年3月には自身が出演したTVCMソングの“リルラ リルハ”をリリースし、チャート3位を記録。同年には初の全国ツアーを行い、〈サマーソニック〉をはじめとするイヴェントにも多数出演。奥田民生とコラボレーションしたシングル“BEAT”や、映画「CUSTOM MADE 10.30」の主演でも話題を呼ぶ。2006年に入ってからはシングル“You”をリリースしてさらなる注目を集めるなか、3月8日にセカンド・アルバム『Circle』(コロムビア)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年03月09日 13:00

更新: 2006年03月23日 23:41

ソース: 『bounce』 273号(2006/2/25)

文/桑原 シロー