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インタビュー

Rhymester

日本語ラップのパイオニアがまたしても最高傑作をドロップ! この春は『HEAT ISLAND』現象が起こること間違いナシ!


 日本語ラップがまだポピュラーではなかった頃から活動し、コンスタントなリリースを重ねながら、KICK THE CAN CREWらをはじめとする後進アーティストたちに道を拓いてきたRhymester。「内省的かつストイック」(宇多丸)に、「自家中毒になりにいったような」(Mummy-D)前作『グレイゾーン』が、日本語ラップ・シーンのド真ん中たらざる彼らの立ち位置を改めて照射したものだったのは言わずもがな。しかしそれは同時に、日本語ラップそのものが日本のポピュラー音楽の〈グレイゾーン〉(=大衆的な音楽たりえぬもの)であり、その〈グレイゾーン〉たる日本語ラップを越えて自分たちの音楽を成立させんとする、Rhymesterの逆説的な〈ポピュラー音楽宣言〉だったのかもしれない──彼らのニュー・アルバム『HEAT ISLAND』を目の当たりにしたいまはそう思いたい。DJ JINはBreakthrough、Mummy-Dはマボロシと、課外活動でのリリース経験が作用したであろう今作の、ビート音楽としてはおそらく彼ら史上最高の同時代性に満ちた音作り、吹っ切れたラップは、「いままでで初めて前作を超えることを意識したし、それがプレッシャーだった」(DJ JIN)というメンバーの意識をよそに、その音楽をいま一度力強く息づかせた。それはまた、US産ヒップホップへのコンプレックスを、それに近づこうとすることで晴らしてきた日本語ラップを、音の鮮やかさと誰にでも届く歌詞の一般性をもって日本のポピュラー音楽へといま一度解き放つことでもある。

「向こうだとエグい内容でもポップ・ミュージックだったりする。具体的なんだよね、どこまでも。日本だとそれがありえない。〈よくわからないもの信仰〉が特に強いし、〈なんなの、この違いは?〉みたいな。だから、さしあたっては普通なら歌わないようなことでもポップ・ミュージックとして溶かし込んでいく、と。英語詞級におもしろいもの、あれ級の強度が欲しいって意味で」(宇多丸)。

「(リリックは)トゥーマッチなくらいにおもしろくていい、と。〈ヒップホップはこういうこと言ってりゃいい〉みたいな部分に寄っかかってきた人が多いじゃん?」(Mummy-D)。

「トゥーマッチでいい、っていうかトゥーマッチじゃないと、っていう」(宇多丸)。

「Rhymesterは(日本語ラップ・)シーンを見てたらつまんなくなっちゃう。逆に言うとまだ原点にいるんだと思うよ」(Mummy-D)。

 ポピュラー音楽の原点は聴く者に届くかどうかに尽きる。かつてもいまもRhymesterの意志はそこにあり、『HEAT ISLAND』は優れたポピュラー・ミュージックのアルバムだ。あとはみんなが聴くだけ。

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カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年03月16日 18:00

更新: 2006年03月31日 10:42

ソース: 『bounce』 273号(2006/2/25)

文/一ノ木 裕之