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インタビュー

TED LENNON


 ここまでくるとフォーク/ブルースの新たな革命と考えるべきか。ジャック・ジョンソンの活躍以降に浸透してきたサーフ・ロック/サーフ・ミュージック。アコースティック・ギターを緩やかに弾き綴っただけの極めてシンプルで奇を衒わないものだが、一見主張の少ない自然志向とも言うべき風合いのサウンドは、〈9.11〉~イラク戦争という社会状況に対して静かにノーを唱えているようにさえ思える。連帯感のあるジャック・ファミリーあたりからは、手を取り合って高め合うことの豊かさ、素晴らしさを感じることもできるだろう。

 カリフォルニア出身の現在29歳、テッド・レノンもまたそうしたアコースティック・グルーヴの革命児となりうる新顔だ。ジャック・ジョンソンとは学生の頃からの付き合いで、昨年も地元でジョイント・コンサートを行うなど深い交流を持ち続けている。もっとも、彼自身、両親や親戚がミュージシャンだったこともあり、音楽はとても身近なものだったそうだ。

「小さい頃からステージで演奏してる両親を観に行ってたね。初めてギターを手にしたのは16歳の頃。父のギターがいつも家中に転がっていたから、自然と弾くようになったんだよ。だから、父といっしょに演奏したりしながらギターの奏法を学んでいったんだ。今でも毎日弾いてるよ。新しいサウンドを見い出すために、常に曲のアイデアやコード進行、異なった指のピッキング・パターンを実験してるんだ」。

 ギターの話になると止まらないようで、大学ではクラシック・ギターもかなり勉強したとか、50年代のシアーズ・シルヴァーストーンを使っているとか、かなりの情熱をそこに感じ取ることができる。しかし、このたび日本盤でリリースされたファースト・アルバム『Water & Bones』のレコーディングで使用されたのは、父親がその昔買ってくれたという1ドルのナイロン弦ギター。自分の身体にフィットする音を鳴らすことを何より大切にしているミュージシャンであることを窺わせてくれる。大学卒業後の2年間はNYに滞在していたそうだが、最終的にふたたび西海岸に戻って活動を深めていったことからもわかるように、テッドにとって音楽は〈帰る家〉〈家族のいる町〉のようなものなのかもしれない。

「木々や川、山々、海に囲まれた平和な環境で育ったという経験は確かに自分にとっては大きいね。自然の世界との繋がりを持つということは、僕にとってお金では買えないものなんだ。あらゆるものがそれぞれの時間を持っているってことを教えてくれる。新しいものが生まれ、古いものは生まれてきた大地へと還っていく、素晴らしい摂理だよ。だから僕もあまり難しく考えずにフィーリングで曲を作っているんだ。僕の人生と音楽のヴィジョンは、ほとんど自然と関わり合っている。僕自身、愛のために一生懸命働いたりシンプルな人生を送るようにしたいと思っているしね」。

 テッドの作品はアコースティック・ギターと彼自身のヴォーカルが中心。それでも、体内で血肉が熱く脈動しているようなグルーヴを醸し出しているのは、生身の人間であるテッド自身が理想とする、そうした自然の風景の中で活き活きと生活することを謳歌しているからだろう。彼がビートルズの68年作『The Beatles』と、トラヴェリング・ウィルベリーズの88年作『Vol. 1』と共に生涯のフェイヴァリットとして挙げてくれたディスクがボブ・マーリーの73年作『Catch A Fire』というのにも納得がいく。

 ところで、〈レノン〉という名前から思い出すのはジョン・レノンだが、実際にジョンはテッドにとって遠い親戚筋にあたるのだというから驚く。

「レノンっていう名字はアイルランド系でね、僕の先祖がアイルランド出身だったそうだよ。ただ、ジョン・レノンにも彼の家族にも会ったことはないんだ。でも夢には出てきたことがあるけどね(笑)」。

PROFILE

テッド・レノン
76年11月3日生まれ、カリフォルニア出身のシンガー・ソングライター。ヴァン・モリソンやドアーズのオープニング・アクトを務めたこともあるアザー・ハーフのメンバーを父に、コーラス・グループ=レノン・ブラザーズのメンバーを祖母に持ち、幼い頃から音楽に親しんで育つ。カリフォルニア大学サンタバーバラ校でジャック・ジョンソンと知り合い、サーフィンやコンサートをいっしょに行うようになる。大学卒業後の2年間をNYで過ごし、ライヴハウスや地下鉄構内でライヴ活動を展開。2004年にファースト・アルバム『Ted Lennon』を本国でリリース。このたび同作の日本盤仕様となる『Water & Bones』(Just Another/ユニバーサル)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年03月16日 13:00

更新: 2006年03月16日 23:18

ソース: 『bounce』 273号(2006/2/25)

文/岡村 詩野