インタビュー

Ursula 1000


 プレイボタンを押した瞬間に、賑やかなパレードがやってくる!! 隊列ではゴージャスに着飾ったギャルやらナードなBボーイやらに混じって、巨大なアフロとドレッドが揺れ、カーニヴァルのダンサーが羽根を振り乱し、ニューロマンティックなオッサンがキャッキャ騒ぎ、ついでにアラジン・セインもいるぞ……ベタな形容をすれば、『Here Comes Tomorrow』とはそんなアルバムだ。何となくの雰囲気はこのページの写真を見てもらえれば伝わるだろうし、もうちょっとハッキリ言えば、ビーツ・インターナショナルとデヴィッド・ボウイが合体したような感じ、なのだが。

「ワォ! それは嬉しいね! 最初に僕が考えていたのは、まさにそういう感じの音楽だったよ。今回のアルバムはこれまで温めてきたアイデアをすべて具体化したものさ。正直、完成してホッとしてるよ(笑)」。

 そう話すのはパレードの先導者、アーシュラ1000だ。90年代後半からラウンジーなブレイクビーツ・トラックで頭角を表してきた彼は、いまやプラダやディオールのプレミア・ショウなどでBGMを任されるセレブなDJでもある。一方で、「初めて買ったレコードはチープ・トリックの『At Budokan』さ!」とはしゃぎ、「子供の頃はトム・ジョーンズに夢中だった」とも話す彼の音楽嗜好は、このたび登場した件の『Here Comes Tomorrow』を聴けばわかるようにやたらとカラフル。60年代ソウルからサルサ風、アッパーなファンク、グラマラスなチアー・ロック(?)まで、自身のレコード棚を隅々まで探って、ひときわベタな素材を選び出したような雰囲気すらある。

「うん。僕のDJセットはいろいろな時代やスタイルを巡るサウンドの探検みたいな雰囲気なんだけど、それを一枚の作品で表現するチャレンジであったことは確かさ」。

 なかでも耳を惹く、プリンスそのまんまな“Electrik Boogie”については、「70年代末から80年代初頭のプリンスへのオマージュと言ってもいいトラックさ! 僕は彼を愛している!」とのこと。で、そんなヴァラエティーを貫徹しているのは、このうえなくポップなフィーリング。それも心と身体が勝手に躍り出すようなハッピーなやつ……とか、書いていると気恥ずかしくなってしまうが、実際にそうなのだから仕方ない。

「このアルバムは、いろんなサウンドに乗った旅行のように始まって、最後にロマンスと希望を提示して終わるんだ。本当におかしな時代に生きているからこそ、未来を諦めずにオープンマインドで楽しもうということを表現しているのさ」。

 なるほど。そんな旅の帯同者は、トランペット奏者である父親のホセ・ジメーノをはじめ、メジャーな作曲仕事も多いDrルーク、日本ツアーの際に出会ったという大河原泉(QYPTHONE)、そして80年代初頭に活躍したあのクリスティーナら、これまたヴァラエティーに富んだゲスト陣だ。

「父と仕事をしたのは今回が初めてなんだよ。イズミの声は楽曲にユーモアをもたらしてくれている。それに、昔からファンだったクリスティーナとやれたのは驚きだった。“Urgent/Anxious”は彼女のために書いた曲だから本当に嬉しかったね!」。

 そういえば、マックス・セドグレイやベント・ファブリックらを例に挙げるまでもなく、アーシュラ1000のように〈2000年代のビッグ・ビート〉とでも呼びたいポップなブレイクビーツ作品が注目を集める機会は増えているように思う。

「そうそう。素直に嬉しいね! でも、それを〈Happy Charm Fool Dance Music〉なんて呼ばないでくれよ(笑)。僕は人生を楽しんでるんだ。妻も美人だし(笑)、チワワも飼ってる。そんな環境でダークな音楽を作るほうが難しいよね?」。

 まあね。とかく〈BGMにならない音楽こそが尊い〉と思いたがる人は多いけど、このパレードの賑やかさから目を背けるのは、ちょっとひねくれすぎでしょう。

PROFILE

アーシュラ1000
本名アレックス・ジメーノ。NYをベースに活動するDJ/クリエイター。ロス・チャヴァレス・デ・エスパーニャのホセ・ジメーノを父親に持ち、幼い頃からさまざまな音楽に親しむ。ロック・バンドを経てDJとしての活動を開始。やがて制作にも取り組むようになり、99年にデビュー・アルバム『The Now Sound Of Ursula 1000』をリリース。翌2000年にはミックスCD『All Systems Are Go-Go』、2002年にはセカンド・アルバム『Kinda' Kinky』と着実にリリースを重ね、リミキサーとしてニコラ・コンテやフィリックス・ダ・ハウスキャットらを手掛けている。このたびサード・アルバム『Here Comes Tomorrow』(Eighteenth Street Lounge/Village Again)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年04月20日 00:00

更新: 2006年04月20日 18:28

ソース: 『bounce』 274号(2006/3/25)

文/出嶌 孝次