SUEMITSU & THE SUEMITH
クラシック畑の代表的な楽器であるピアノとロックの相性の良さは、 ポップスの歴史を紐解いてみても明白だ。ジェリー・リー・ルイス、エルトン・ジョン、ビリー・ジョエル、ベン・フォールズなどなど、海外においては脈々とピアノ・ロックの系譜は繋がっている。こと日本においてロック色の強いピアノマンというのは、お目にかかったことがない。そんななか、突如メジャー・シーンに登場したアーティストがSUEMITSU & THE SUEMITH(スエミツ・アンド・ザ・スエミス)。ディズニーのロック・カヴァー・アルバム『Mosh Pit on Disney』、モータウンのロック・カヴァーアルバム『Rock Motown』にも参加していた、末光篤によるソロ・ユニットだ。今回のメジャー・デビュー盤は、彼がインディー時代に発表したアルバム『Man Here Plays Mean Piano』に、ディズニー(新録)と、モータウンのナンバー、元SUPERCARのいしわたり淳治が日本語詞を手掛けた2曲を追加した、全14曲入りとしてリリース。彼の楽曲からは、静かで華麗なイメージのピアノの概念をぶっ壊すような、ラフでファストなサウンドが聴こえてくる。ではまずは、彼の音楽的ルーツから探ることにしよう。
「小さい頃はフィンガー5とか歌謡曲を聴いてましたね。あと、もともと家にピアノがあったので、クラシックに興味を持って、それで音大に入ったんです。大学はお嬢様とかばかりだったけど、中にモッズの先輩がいて、その人にいろいろロックを教わりDJイヴェントにも行くようになって」。
ロックも好きで、クラシックの素養もある彼は、どのように曲を作るのだろう。
「まずタイトルを決めて、例えば“Irony”なら、それを毎日何度も弾くんです。最初は毎回変わるんだけど、それがある日から何回弾いても同じになるんです。迷わなくなる時が来たら完成。メロディーとギターとかのアレンジも頭に同時にできるんです。で、歌詞はあとから詩を書くように作っていって、英語にひっくり返して完成です」。
グラインド・ピアノ・ロックというキャッチが付けられているとおり、サウンド面では歪みやアグレッシヴなアプローチが多いが、それも彼独自の発想によるものだ。
「ザラザラしたラウドな音にピアノを入れてみたかったんです。あと、曲によってピアノがドラムの役割やってたり、ベースラインをやってたり、ギターのリフ追っかけてたり。本来のピアノって使い方から外れたものをやってるんです。他の楽器の概念で料理したほうがおもしろいかなって。そういうものを聴いてみたかったんですよね。他にないからやってみようかなって(笑)」。
なんとも型破りな男である。さらに、歌とメロディーが心にグサッと突き刺さるような良いものだったりするからニクいではないか。
「今後はこのラインは残しつつ、違うことができたらとは思ってます。フィーチャリングで歌ってもらったり、ラッパーを入れたり。あと素材を全部投げて、誰かDJに完成してもらうみたいなこともやってみたいですね」。
ピアノを使いながら、音楽家としての可能性をこれからどんどん広げていきそうなSUEMITSU。では彼に、自身の最大の武器であるピアノへの思い入れを訊いてみた。
「でも特別なこだわりはないんですよ。ただこれが僕が表現する方法の唯一のものってだけで。でもフェンダー・ローズは嫌いです。ガツガツ弾けないし壊れるんで(笑)。僕、力が強くてピアノも壊すんです。去年の暮れに買ったのも、中の弦がバツバツ切れて。普通は切れるもんじゃないんですけどね(笑)」。
恐るべきパワーヒッティングのピアニスト、SUEMITSU。そんな彼に、改めて今作のリスナーへのメッセージを訊いてみた。
「ピアノ・バンドってカテゴライズされるものがここ数年あるけれど、そのなかでも異質な存在だと思います。ピアノの使い方も普通やらない弾き方もしてるし、おもしろく作ってるんでそこも聴いてほしいです。あとは聴く人に委ねます(笑)。あ、車で聴くと飛ばしちゃうって人もいるんで注意してください(笑)」。
PROFILE
SUEMITSU & THE SUEMITH
作詞(英語詞)、作曲、編曲、そして歌とピアノをすべて手掛ける末光篤のソロ・ユニット。名古屋音楽大学(専攻はピアノ)を卒業後、学生時代に身につけた音楽理論とクラシック・ピアノの技術を礎にオリジナル楽曲の制作を始める。ディズニーのカヴァー・アルバム『Mosh Pit on Disney』や『Rock Motown』といったコンピに楽曲を提供しつつ、インディー・レーベル〈Rhythm REPUBLIC〉よりファースト・アルバム『Man Here Plays Mean Piano』をドロップ。そして、そのアルバムに4曲の新録を追加収録したメジャー・デビュー・アルバム『“Man Here Plays Mean Piano”A New Edition 4 Sony Music』(キューン)がリリースされたばかり。