インタビュー

InK


 電気グルーヴの石野卓球とTOKYO No.1 SOUL SETの川辺ヒロシという意外な組み合わせによる新ユニット〈InK〉。電気グルーヴ×スチャダラパーの打ち上げの席で酒の勢いで?結成されたという。これまでの石野のコラボレーションものが1回限りだったのに対して、InKはパーマネントな活動を予定。デビュー作『C-46』は、ニューウェイヴ、エレクトロ、ダブと、相互の共通のルーツを取っ掛かりに、さらに現在のトラックメイカー/DJとしての自分たちに接続していくようなポップかつディープなダンス・ミュージックが聴ける。

「最初に声ネタ用に川辺君が持ってきたのがクルップス(80年代ジャーマン・ニューウェイヴのバンド)の12インチでさ。もうオレにとってはど真ん中(笑)。これは問題なくいっしょにやれるなと」(石野)。

「100円コーナーで適当に拾ってきて、当然知らないだろうと思ってたのに(笑)。でもそれを聴いてすぐ作業に入って、アッという間に1曲完成させて。すごいヴァイタリティーだと思った」(川辺)。

 最初のセッションで3曲、3日で8曲完成。「今までこんなに速くできたことはない」と、川辺が驚くほどのスムーズな共同作業だったという。

「もう楽しくて。オレが絡んだ仕事でこんな曲が出来ていいのか!みたいな。自分ひとりでは絶対出てこないようなフレーズや音色が次々と出てきて、すごく刺激的だった」(川辺)。

「俺にとっては1日3曲って別に珍しくないんだけど(笑)。ただ、ひとりでやってると、どうしても同じ曲のヴァリエーションみたいな、リミックスやってるみたいに作っていくことが多いんだけど、今回は元になるアイデアが全然違うところからくるから、同じ3曲でも全然違うものになってる。すごく新鮮だったよね」(石野)。

 最初はクラブ・トラックスを作るつもりでスタートしたものの、作業を重ねるうちさまざまな縛りは取り払われ、より自由で解放されたものになっていった。決して過剰にストイックになったり密室的になったりすることなく、作る側の楽しさやゆるやかな昂揚感がそのまま伝わってくる。

「最初から意識してそうしようと思ったんじゃなく、作っているうちに自然とそうなったね。ふたりともDJでありながら、J-Popと言われるフィールドにもいるってスタンスでしょ。だからこういうものになったんだと思う。縦と横だけじゃなく、3次元的な広がりが出たというか」(石野)。

「DJとバンド、どっちが主体ってこともないし、その一体となった自分が、今回もよく出ていると思います」(川辺)。

 また、ここ数年あまりフロントに出なかった石野が、ポップなメロディーを気持ち良さそうに歌っているのも印象的だ。

「前は(子供っぽい感じの)自分の歌声があまり好きじゃなかったんだけど、最近は自分の持ってるものだからと思えるようになってきた。今回も、気分良く歌えそうだったからね」(石野)。

「卓球君の声、大好きなんですよ。ハナレグミ(永積タカシ)か卓球か、っていうぐらい、いい声だなあって。卓球君、ハナレグミ知らなかったんだけど(笑)。今回はまさか歌が入るとは思ってなくて、作業してたら、後ろから歌が聞こえてきて(笑)。メロディー浮かんだからさって」(川辺)。

「最初から歌わなきゃならないって決まってたら、そういう内発的なものにはならなかったと思う」(石野)。

 まったくどんなものになるのか見当もつかない状況で始まったこのプロジェクトも、「これ1回で終わらせるのはもったいない」(石野)と思わせるほどの手応えがあったようだ。3月31日に行われたお披露目ライヴでは、アルバムのさらに先にある風景を見せ、進化するユニットとしての大いなる可能性を感じさせたのだった。今後が楽しみなふたりである。

PROFILE

InK
電気グルーヴの石野卓球と、TOKYO No.1 SOUL SETの川辺ヒロシによる新ユニット。ソロ活動やDJなど、電気グルーヴ以外の活動も国内外で高く評価されている石野は、これまでもウェストバムとの〈TAKBAM〉や、岡村靖幸と組んだ〈岡村と卓球〉、さらに〈電気グルーヴ×スチャダラパー〉など多くのユニットを組んできたが、今回はスチャダラパーを仲立ちに川辺ヒロシと出会い、共同制作を開始する。デビュー前にも関わらず、“Bassline”がTVCMソングとして起用されたり、3月31日のプレ・リリース・ライヴではLIQUIDROOMを満員の観客で埋め尽くしたりと、各方面で話題を振りまいた。4月26日にデビュー・アルバム『C-46』(キューン)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年05月04日 18:00

更新: 2006年05月04日 19:08

ソース: 『bounce』 275号(2006/4/25)

文/小野島 大