インタビュー

The Mark Inside


 PA技術の革新はバンドにとってもリスナーにとっても有益だ。何せ昔みたいに特大のマーシャルを10も20も積み上げる必要がなく、ツマミひとつで簡単に爆音を演出することができるし、聴き手は量産される爆音を求めるだけ手に入れることができるようになったからだ。しかしそんなサウンドに欠如しているものは何か? それは心意気である。バカでかいアンプを空虚に積み上げて、ノイズを気にせず煙が上がるまでヴォリュームを上げる・・〈物量と魂の爆音で相手を蹂躙してやろう〉という、ロック・バンドの毒気と色気に満ちた獣の心意気。そんな粋な精神をいまの時代にここまで剥き出しにしている音楽と久しぶりに出会った。それはここで紹介するカナダ産〈ポスト・ガレージ・パンク・バンド〉、マーク・インサイドのファースト・アルバム『Static/Crush』だ。

「初めて楽器に触れたのは13歳の頃。もっとも大きなインスピレーションを得たのはニルヴァーナ、特にカート・コバーンだろうね。それからラモーンズなどの初期パンクにも影響を受けたよ。初めてギターに触れた少年なら誰でも虜になるような、シンプルで、ラウドで、アグレッシヴな音楽だ」(クリス・レボアー:以下同)と語る彼らのサウンドには、いまなおそんな初期衝動が激しい濁流のように渦巻いている。しかし、彼らの音楽遍歴はそこで止まらなかった。

「イギー・ポップからは音楽だけじゃなくステージングなどの面でも影響を受けてるね。その後はクラフトワークからルーツまで、あらゆるものからインスピレーションを得ているよ」。

 USガレージ・ロックの象徴にしてパンクの元祖とも言えるイギー・ポップやMC5のようなガレージ・サウンドから、テクノ・ポップやヒップホップにも傾倒。さらに80年代が生んだもっとも偉大だと思うバンドは?との問いには「ハスカー・ドゥ!」との答えが。いままでこんなバンドとは出会ったことがない! しかもそのさまざまな音楽要素をタイトにまとめ上げ、アーケイド・ファイアやブロークン・ソーシャル・シーンなどに象徴されるカナダ・バンド特有のインディー・ロック~ポスト・ロック・サウンドまでをも内包している。そのあまりに大量な情報量が、ソリッドなガレージ・パンクに詰め込まれているのだ。私が彼らを〈ポスト・ガレージ・パンク〉と呼ぶ由縁はそこにある。

「なかなか的を射た表現だと思うよ! ストロークスやホワイト・ストライプスが出てきた時に、まわりの友達は俺らのサウンドを説明するのにそういったバンドと比較したんだ。〈ガレージ〉と呼ばれるサウンドをプレイしていたのは俺たちのほうが2年ぐらい早かったのにね。でも実際のところ、ジャンルやスタイルといったことには何もこだわってないな」。

 現在、カナダ産ロックの評価が世界中で急激に高まっているが、ロック最先進国のUS/UKシーンをクリスはどのように見ているのだろうか?

「俺的にUSの音楽シーンというのはひとつの大きなマシーンのようなものだと思っていて、そのマシーンの中でちゃんとコントロールしてくれる人がいない限りシーンのサポートは得られないような気がしてるんだ。USとカナダ・シーンの大きな違いは、カナダでは有名なバンドと駆け出しの新人バンドとの間の溝があまりないことだ。全体的な水準も高く、しっかりとしたサポートを得られている。UKに関して言えば、俺たちはレディオヘッドの大ファンだし、ストリーツにハマっているメンバーもいる。行ってみたい国ではあるね」。

 続いて日本の印象も訊いてみた。

「去年トロントでズボンズを観たんだけど、とても感銘を受けたよ! 彼らと共演の機会を探ってるんだけど、どうなるかなぁ」。

 その共演、必ず実現させようぜ!

PROFILE

マーク・インサイド
クリス・レボアー(ヴォーカル/ギター)、ガス・ハリス(ギター)、ジェフ・ベネット(ベース)、ジョーディー・ダイナス(ドラムス)から成る4人組。2000年1月にカナダのオンタリオで結成。ハイスクール時代、クリスとジェフはエイドロン、ジョーディーとガスはサブリミナルというバンドに在籍していたが、やがていっしょにライヴ活動を行うようになる。2002年、活動の拠点をトロントに移し、のちに彼らのプロデュースを手掛けることとなるカーネーションズのトム・ダーシーと出会う。その後、ヴェルヴェット・リヴォルヴァーのオープニング・アクトに抜擢。さらなる話題を集めるなか、このたびファースト・アルバム『Static/Crash』(Maple/CCRE)を4月26日にリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年05月11日 18:00

更新: 2006年05月11日 19:19

ソース: 『bounce』 275号(2006/4/25)

文/冨田 明宏