Struggle For Pride
圧倒的かつ怒濤のライヴ・パフォーマンスでその名を広めたハードコア・パンク・バンドが、STRUGGLE FOR PRIDE(以下、SFP)だ。ただSFPはいわゆる〈バンド〉という表現では収まりきらない存在ともいわれている。それは彼らが活動範囲をライヴハウス、クラブと限定せずに行ってきたこと、そしてそこでの立ち居振る舞いが自然体、または自由と捉えられ、それらが多くの人には新たなるカルチャーもしくは新たなる価値観を生み出していると映っていることに端を発している。
「バンドだと4人だけじゃないですか? それに関わる人、例えばジャケを作ってくれる友達もいるし、他にも関わっている人がいるから、俺らは音楽担当ってだけで。4人という区切りはまったくないし、あんまり意識してないですね」(今里、以下同)。
ライヴでは高速のビートが床を揺らし、耳を劈くギター・ノイズはヴォ-カルを掻き消すぐらいの轟音で鳴り響く。そのなかでヴォーカルの今里は時にマイクも持たずに言葉を放つ。その聞こえない言葉に観客は喧噪と笑顔で呼応し、短いライヴはより短さを感じさせたまま終わる。その言葉の意味を考える間もなく、感じたままに……。
「(歌詞は)思いついたときに単語を携帯に入れてて。ただ、テーマを決めて歌詞を書こうなんて思わないし、俺には不可能だから。すごい抽象的で幻想的な歌詞とかも聴くぶんには好きなんだけど、自分がそれをやるかというとそういうタイプじゃない。(自分が)歌詞をライヴで聴き取れなくても歌詞カードを見たり、歌詞がわからない言語だったらそれを訳したりもする。それができない時はアートワークから理解しようとしたりとか。(理解するというのは)CDの音だけじゃなくて、全部ひっくるめてだと思うんですよ」。
SFPとして初の単独作となるファースト・アルバム『YOU BARK WE BITE』では、サウンド的に特徴的な部分がある。それは音のバランスであり、上記したライヴを再現したかのようなギター・ノイズを強調し、ヴォ-カルは極端に小さい音になっている。それは言い換えれば、他とは違った彼らの個性でもある。
「(曲作りとかで)スタジオで練習してる時、俺がだんだんギターとベースのヴォリュームを上げてヴォ-カルを下げていく。やっぱり、ヴォ-カルを上げると恥ずかしいんですよね(笑)。あと、大きい音で音楽を聴きながら寝る人っているじゃないですか? 俺はダメで。ただ意識しないで、車の中とかでウトウトしてて音楽が遠くで鳴って聴こえてくるような感じが好きで。俺は音像とかのことをわかってないけど、俺はああいう柔らかい感じのああいうバランスが好きなんだと思いますね」。
今作は激しいだけではなく起伏をも感じ、「ちゃんと始まりがあって終わりのあるアルバムにしたかった」という発言にも納得できる内容になっていて、それをさらに際立たせているのが、アルバムの幕を開けるカヒミ・カリィによる、静かでいて何気ない言葉の中に深い意味を持つ朗読。それはアルバムにある種のストーリー性を持たせ、同時に今作全体を覆う〈何か〉とシンクロしているようにも感じる。ギター・ノイズのなかで繰り広げられるMSCの漢と麻暴のラップはけたたましい街の喧噪を思い起こさせ、その後、SFPの怒濤のライヴにも似た音世界が繰り広げられる。そして突然訪れるのが、今里がバンドをやりはじめようとした時に聴いていたいくつかのハードコア・パンク・バンドのひとつと同名である、無音の曲“MOBS”。その後アルバムは表題曲でエンディングを迎える。
最後にちょっと意地悪な質問。このアルバムをどんな状況で聴いてもらいたいか?
「決してストレスとかで作ったアルバムではないから、自分のイイ状態のときに風景とかを思い浮かべてもらえたらいいかな……。あ、やっぱりどんな状況でもいいです(笑)」。
今里は臆面もなくみずからを語る人ではないし、決めつけや押しつけを嫌う人物であった。このアルバムにある〈何か〉は、そんな彼のなかから生み出されている。
PROFILE
STRUGGLE FOR PRIDE
今里(ヴォーカル)にギター、ベース、そしてドラムスの4人から成るハードコア・パンク・バンド。2000年、〈less than TV〉より初の音源となるScrewithinとのスプリットEP『...Hold Fast Afflux』をリリース。以後も2001年、2002年と同レーベルよりスプリットEPを発表し、2003年にリリースされたコンピ『友達以上・恋人未満・テレビ以下』にも参加。2004年と2005年には野外イヴェント〈RAWLIFE〉に出演し、その活動はライヴハウスのみならず、野外レイヴやクラブ・イヴェントにまで広がっていく。今年に入り、3月にはアルバム先行の12インチ・シングル、そして5月には初のアルバム『YOU BARK WE BITE』(TAD SOUND/tearbridge)をリリースしたばかり。