インタビュー

DJ Patife

ブラジリアン・ドラムンベースの超本命馬が、待望のオリジナル・アルバムをドロップした!!


 ステーヴィー・ワンダーの名曲“Overjoyed”の流麗なカヴァー(クリーヴランド・ワトキスのヴォーカルも絶品!)で大注目を浴びたブラジリアン・ドラムンベースの雄、DJパチーフェ。アンダーグラウンドなダンス・ミュージック、という出自を忘れてしまうほどの美しさと洗練性を備えたそのトラックはすでにさまざまなコンピに収録され、人気ハウス・コンピ〈BOSSA HOUSE N' BREAKS〉のDJミックス担当に(ハウスDJでもないのに)起用されるという状況がパチーフェの期待されているポジションを顕著に表している。そんな状況下で登場したのが初のオリジナル・アルバム『Na Estrada』だ。

「子供の頃はよくラジオを聴いていたよ。ヒップホップが大好きだった。ドラムンベースには一目惚れって感じだったな。DJマーキーが昔働いていたレコード店で初めて聴いたんだ。完璧だって思った。ドラムンベースはすべてを持っているんだ。速いブレイクスにストロングなベースライン、ヴォーカル……」。

 パチーフェの盟友であり、ブラジリアン・ドラムンベースの象徴的な存在であるマーキーは、シーン全体にとっても特別な存在である。

「マーキーはドラムンベースのDJプレイを変えた。ドラムンベースへの貢献は誰よりも大きいんだよ。俺にとって彼は世界一のDJだし、それに俺は彼のことを1から10まで知ってるからね」。

 そう、通常のドラムンベースのフォーマットにブラジリアン・ミュージックの要素を持ち込んで最初に世界的な人気を得たのはマーキーだが(その代表がいまも人気高の“LK”)、パチーフェは今作においてドラムンベースというより、〈ドラムンベースの要素が濃いブラジル音楽〉を展開しているのだ。『Na Estrada』はほぼ全曲がヴォーカル・トラックで、フロア直結のハードな要素は皆無、唯一のインスト曲“Midnighter”もサックスが歌うビッグバンド・ジャズだし、泣きのヴォーカル&メロディーが耳残りする“Secret”はしっとりボサノヴァ……というように、非ドラムンベース曲がキーポイントとなっている。しかし、パチーフェ自身はドラムンベースであることに頑なだ。

「信じてもらえるかわからないけど……凄く自然にこの内容になったんだ。もちろんソウルやサンバは俺の音楽にとても反映されているけど。かといって、ドラムンベース以外のスタイルに移行するつもりはまったくないよ。俺はアルバムを聴いてくれる人たちに、俺が好きな他の音楽もあるって見せたかったんだ」。

 すべてが自然体。だからこそ“Overjoyed”にも、アルバム冒頭を飾るマリーザ・モンチ“Diaramenere”のカヴァーにも嫌味はないし、自分の信念を貫いて傑作を作り上げたパチーフェは100%信用できるのだ。

「自分の音楽がどう呼ばれるとかは気にしないね。ドラムンベースは俺にとって本当に大切なものなんだ。俺はここにいて、できることをやっているんだよ」。
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掲載: 2006年06月29日 01:00

更新: 2006年06月29日 22:20

ソース: 『bounce』 277号(2006/6/25)

文/石田 靖博