インタビュー

BUSY SIGNAL


〈若手DJキング〉の座を巡ってはヴァイブス・カーテルとアサシンの2人が競い合ってきたここ2~3年のレゲエ・シーンだが、彼ら2人の存在を脅かす超強力なライヴァルがついに出現した。巧みなリリック展開と多彩なフロウを武器に、2005年に一気にブレイクを果たしたビジー・シグナルこそがその人物。バッド・マンの日常を歌った“Step Out”や、ゲットー出身の若者である彼自身のメッセージがたっぷりと詰まった“Not Going Down”を筆頭に、昨年の夏以降ダンスホールの現場で彼の歌を聴かない夜はないと断言していいほどビッグ・チューンを連発しているのだ。彼の曲に限らず、ダンスホール・レゲエのリリックに頻出する〈バッド・マン〉という概念について、彼はこう説明する。

「俺自身は、己の信じる道を突き進んでる奴のことを〈バッド・マン〉と定義してるよ。俺の歌に登場する〈バッド・マン〉とは、決して罪を犯したり暴力を振るったりするような奴のことじゃない。街にたむろしてるふつうの兄ちゃんや姉ちゃんのハートをガッチリ掴むようなヤバい曲を歌うアーティストは、かなり〈バッド・マン〉なアーティストだと俺は思うね」。

 現在24歳の彼は、いままでの人生の大半をゲットーと呼ばれる地域で過ごしてきた。貧しさから犯罪に手を染める若者も多いなか、自分自身のDJとしての才能を自覚していた彼は、レコーディング・スタジオやダンス(ダンスホールのイヴェント)に顔を出すなどして見事にチャンスを掴み取った。

「中高生の頃はニンジャマンやスーパー・キャット、シャバ・ランクスなんかに憧れて彼らの歌をマネしてたよ。そのうちに〈オリジナルのリリックを書いて自分の歌を歌うべきだ〉と友人からアドヴァイスされて、本格的にDJをめざすようになったんだ。俺は自分がやるべきことをちゃんと自覚していたから、そのやるべきことだけに集中してきたんだよ。そして周りに流されるんじゃなくて、自分の頭を使ってしっかりと考えてきた。いい人間関係を築いて、ネガティヴなことに巻き込まれないようにすることも大切だね」。

 ついにリリースされる待望のファースト・アルバム『Step Out』には、前述の2曲をはじめ、“Born & Grow”や“Where I'm From”などのヒット・チューンもしっかりと収録されている。また、新たに10曲以上をアルバムのためにレコーディングすることで、すでに彼のヒット曲に親しんでいる熱心なダンスホール・ファンにもしっかりアピールできる内容を心掛けたという。

「アルバム作りには、才能のある若手のトラックメイカーたちに参加してもらったんだ。彼らと対等に意見を交わすことで、ビジー・シグナルならではのクリエイティヴでオリジナリティーに溢れた曲を作りたかったからね。大御所のプロデューサーと仕事をすると、自分の意見を言いにくかったりするだろ(笑)」。

 その若手トラックメイカーとは、サード・ワールドのオリジナル・メンバーであるマイケル・アイボ・クーパーを父に持ち、レーベルのフレッシュ・エアーをベースにしたプロデュース業やフェイムFMでのラジオDJとして活躍するアリフ・クーパー、大ヒット・リディムの〈Anger Management〉 を制作し、新人シンガーのマヴァドをブレイクさせたクレイグ・ダセカ・マーシュなど。ビジーの言葉に違わぬ才能に溢れた面々との共同作業は結果として大成功を収め、『Step Out』にはダンスホール・レゲエの未来を占うようなネクスト・レヴェルの楽曲が並んでいる。彼のさらなる活躍を期待させるには、十分すぎる内容のアルバムと言えるだろう。

PROFILE

ビジー・シグナル
本名リーノ・ゴードン。82年生まれ、ジャマイカはキングストン出身のレゲエDJ。学生の頃にニンジャマンやスーパー・キャット、シャバ・ランクスのモノマネをとおしてDJのイロハを学ぶ。21歳で初レコーディングを経験。その後、“So Busy”やタミー・チンとのコンビ・チューン“It's All Because Of You”などがヒットを記録。2005年6月に自身の出世作となる“Step Out”をリリース。同年末には〈ホット・マンデイズ・アニヴァーサリー〉や〈ストーン・ラヴ・アニヴァーサリー〉など、大規模なイヴェントに出演。今年5月には初の来日公演を行うなど日本での人気も着実に獲得していくなか、ファースト・アルバム『Step Out』(Network/ビクター)を6月28日にリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年07月13日 00:00

更新: 2006年07月13日 20:44

ソース: 『bounce』 277号(2006/6/25)

文/森 穂高