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インタビュー

OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND


「小さい頃からずっとクラシックのヴァイオリンをやっていて。その後、チーフタンズのライヴを観て〈カッコイイ! 俺でもできるかも〉って思ったのがきっかけだったね。両親がミュージシャンだったからずっとカントリーとかフォークが身近だったけど、自分でやろうと思ったのはその時が初めてだった」(マーティン)。

 チーフタンズを感じさせますね、と伝えようと思うが早いか、先にそう言われてしまって、やはり、と納得。ヴァイオリンやアコースティック・ギターなど生楽器だけによるシンプルかつ奥ゆかしい演奏なのに、ストリング・チーズ・インシデントのように聴き手も巻き込んで、まるでいまここで、みんなで車座になって音を出し合っているかのようなホットな空気も伝わってくる。フロリダ出身のスコットランド系アメリカ人のマーティンを中心としたバンド、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDは、確かにアイリッシュ・トラッドやフォークを基本としてはいるものの、聴き続けているうちに次第に身体中が熱を帯びてくるような、開放的かつオーガニックな印象を受けるバンドだ。

「最初はヴィジョンも何も考えてなかった。バンドなのかユニットなのかも決めてなくて」とマーティン。そこに手を差し伸べたのがTOSHI-LOWだった。BRAHMANでの活動のイメージとは裏腹に、彼もまた私生活ではトラッドやフォークにも寛容なリスナーだそうだが、だからこそマーティンの作る曲をある意味、客観的な視点で評価することができたのだろう。

「マーティン自身まだ迷いがあったんでしょうね。最初にデモを聴かせてもらった時はまだいろんなタイプの曲がありました。ヴァイオリンを弾くっていっても、エレクトリックな演奏の上にヴァイオリンを乗せるような形もできるじゃないですか。でも、マーティンの曲はズバ抜けてアコースティックのシンプルな曲が良かったんですよ。で、こういうフォーキーなものだったら俺も何かいっしょに手伝ってやっていけるなって思ったんです」(TOSHI-LOW)。

 ファースト・アルバム『OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND』は、みずからヴォーカルをとり、ヴァイオリンやアコースティック・ギターもこなすマーティンが作った曲を基本にして、TOSHI-LOW以下BRAHMANのメンバーやKAKUEIがバック・アップする形で仕上げられているが、実際は生楽器の音でそれぞれの思いを交歓するようなリラックスした雰囲気に彩られている。それでいて洗練された瑞々しい音像に包まれているのも魅力で、改めてアイリッシュ・トラッドやフォークがモダンな音楽であることを痛感させられる人も少なくないだろう。もちろん、いわゆる〈BRAHMANの別ユニット〉という意識もそこには一切ない。

「ただ、僕がいくらトラッドとかを好きっていっても、やっぱり身体の中にその血は流れていないじゃないですか。後からひとりのリスナーとして聴くようになったっていうだけで。でも、マーティンにはスコットランドの血が流れていて、小さい頃からそういう音楽を聴いていた。だから自然と滲み出るんですよね。そこが素晴らしいと思いましたね。スタジオとかでも、僕はコードもチューニングもほとんど気にしたことがなかったんだけど、マーティンはちゃんとした音楽教育を受けてるからキッチリとやる。そういうところも発見でしたね」(TOSHI-LOW)。

 みずから「ミュージシャンじゃなくてバンドマン」と言い切るTOSHI-LOWだが、エレクトリックな要素がまったくないこのOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDにも、そんな〈バンドマン・シップ〉のようなものを感じる。それは、いままでセッション仕事を中心に活動してきたマーティンにとっては、初めての体験でもあるのだろう。

「〈これがバンドなんだ〉と実感することがとても多くなった。これはTOSHI-LOWたちのおかげ」(マーティン)。

「バンドというものが真ん中にあって、それを僕らが取り囲んで作り上げていく。そういう意識でやっているんです。一時的なユニットじゃないからこれからも続いていくわけですけど、次のアルバムとかではもっとそういうバンド感が強まるかもしれませんね」(TOSHI-LOW)。

PROFILE

OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
マーティン(ヴォーカル/ヴァイオリン/ギター)、TOSHI-LOW(ヴォーカル/ギター)、KOHKI(ギター)、MAKOTO(ベース)、RONZI(ドラムス)、KAKUEI(パーカッション)から成る6人組。2004年、Akeboshiが主催するイヴェントに出演したTOSHI-LOWと、Akeboshiのライヴにサポートで参加していたマーティンが出会って意気投合。マーティンがKAKUEIに、そしてTOSHI-LOWがBRAHMANのメンバーに声を掛けて2005年6月に結成される。コンピ『The Basement Tracks -10 YEARS SOUNDTRACKS OF 7STARS』への参加を経て、このたびファースト・アルバム『OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND』(tactics/トイズファクトリー)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年08月03日 02:00

更新: 2006年08月10日 23:17

ソース: 『bounce』 278号(2006/7/25)

文/岡村 詩野