インタビュー

RHYMEFEST


「オレはメジャー・デビューを果たす前にグラミーを受賞した、数少ないラッパーのひとりだからな!」。

 このように、わざわざ傲慢ぶってみせるライムフェストだが、彼は決してホラを吹いているわけじゃない。その名を世に知らしめることになった客演曲、カニエ・ウェストの“Jesus Walks”が第47回グラミー賞にて〈最優秀ラップ・ソング〉部門を受賞したのである。しかしながら、〈旬のトップ・アーティストにフックアップされたラッキー・ガイ〉というありきたりな形容がライムフェストに相応しいとは思えない。17歳の頃から本格的にマイクを握りはじめ、地元シカゴのアンダーグラウンド・シーンにおいて早くからウワサの存在だったという彼は、フリースタイルで〈シカゴ最強〉とも賞される筋金入りのバトル・ライマーだったという。しかも、彼に打ち負かされた屍の山には無名時代のエミネムも横たわっていたというのだから驚きだ。

 ゆえに、人気DJ/プロデューサーのマーク・ロンソンやカニエらによる発見も、起こるべくして起こったことだったのだろう。マークの“Bout To Get Ugly”や、エールの“Alpha Beta Gaga(Mark Ronson Remix)”、コンシークエンスの“Yard 2 Yard”などに次々と抜擢されて着実にステップアップしていったライムフェストは、「古いビートを使って〈真新しい〉サウンドを作ろう、ってカニエとスタジオでふざけてたら、しばらくしてそれがそのまま曲になってたんだ」というシングル“Brand New”にて昨年メジャー・デビューに漕ぎ着けている。コモンやトゥイスタ、ショウナ(素晴らしい新作をリリースしたばかりだ)らによるシカゴ産ヒップホップの盛り上がりも、彼への注目に拍車を掛けた。

「とうとうオレの順番が来たんだよ。オレのプロジェクトに隠された真のコンセプトは、つまらなくなってしまった現在のラップと闘うことなんだ」。

 そんな彼の自信満々な発言が確かなスキルに裏付けられたものであることは、このたび完成したニュー・アルバム『Blue Collar』を聴き進めていくだけでわかるはずだ。Q・ティップによるイントロで幕を開ける同作には、雄々しくハードコアな一面と思慮深いユーモアが混在し、表現力に富んだラップがさまざまなサブジェクトを俎上に乗せていく。先述の“Brand New”はもちろん、ジャスト・ブレイズによるソウルフルな“Dynomite(Going Postal)”、マリオがアイズレー・ブラザーズの一節をスムースに口ずさむ“All Girls Cheat”、「素晴らしいリリシストなのはもちろんだけど、個人的にはシンガーとして素晴らしい才能を持っていたと思う」という故オール・ダーティ・バスタードの凄い歌をフィーチャーした“Build Me Up”などキャッチーなトラックが並ぶ。注目すべきはカニエの師匠的な存在にあたるシカゴのプロデューサー、ノー・IDの参加だ。「オレがどんなに熱い男かって歌を書きたくて、それをノー・IDに告げると、彼は魔法の帽子からこのトラックを取り出したんだ」と説明するエネルギッシュな“Fever”が作品の熱量を何割か増しているのは言うまでもない。

 一方では、虐待に耐える女性たちの痛ましい状況について語った“Sister”(これもノー・ID制作)のようにシリアスなテーマの曲もある。ストリートの貧困からイラク戦争まで、世界を覆う病理について言及した“Devil's Pie”も耳残りするに違いない。『Blue Collar』は一面的なラッパー像を描くことに腐心するのではなく、一人の男が備えていて然るべき複合性をそのままに表現しようとした作品だと言えよう。

「ギャングスタをめざしているヤツらはもう十分いる。オレはゴメンだ。いまヒップホップに必要なのは、誠実で、しかも人を楽しませることのできるラッパーだよ」。

 もちろん、それをやってのけているのがライムフェストなのである。

PROFILE

ライムフェスト
シカゴ出身のMC。90年代後半に地元のアンダーグラウンド・シーンで活動を始め、フリースタイルのMCバトルで頭角を表す。2001年にストリート・アルバム『Raw Dawg』をリリースし、モールメンやガラパゴス4一派とも共演している。マーク・ロンソンが設立したオール・アイ・ドゥーと2003年に契約し、彼の同年作『Here Comes The Fuzz』に客演。翌2004年には同郷のカニエ・ウェストやコンシークエンスらの楽曲に参加し、特にカニエの“Jesus Walks”でその名を知らしめる。2005年にシングル“Brand New”でメジャー・デビュー。さらなる話題を呼ぶなか、オフィシャル・ファースト・アルバム『Blue Collar』(All I Do/J/BMG JAPAN)を7月26日にリリースする予定。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年08月24日 22:00

更新: 2006年08月24日 23:21

ソース: 『bounce』 278号(2006/7/25)

文/出嶌 孝次