インタビュー

LILY ALLEN


「音楽が大好きだから音楽を作ってるんじゃなくて、世の中の誰もが仕事を持たなきゃならないから音楽をやってるの。一日中オフィスにいて、Eメールを送ったり、受け取ったりするような仕事はしたくないのよ。それだったらこういった仕事をしてるほうがいいわ(笑)」。

 真意はともあれ、こんなことを飄々とぬかす生意気な小娘がシングル“Smile”でいきなりのUKチャート制覇を成し遂げたと言ったら、〈音楽が大好き〉な音楽家志望の人たちは眉をひそめることだろう。でも悔しいかな、これが現実。ワンピースにスニーカーという奇怪な出で立ちで、リリー・アレンは突如シーンに現れた。俳優のキース・アレンを父に、スリッツの元メンバーを母に持つ彼女は、転校を繰り返した末に15歳で学校をドロップアウト。そして、発言にもあるとおり〈ごく自然に〉ミュージシャンへの道を歩みはじめた。〈人生はそんなに甘くない!〉と言ってやりたいところだけど、〈myspace.com〉にアップされたデモ音源が話題を集めて、あれよあれよとファースト・アルバム『Alright, Still』のリリースへと至ったのである。

「オーガニックなサウンドで、歳を取った人も若い子も気に入ってくれるようなポップ・アルバムにしたかった。アートワークも興味深いものにしたいと思っていて、過去の音楽と現代の音楽を合わせたような内容にしたかったの」。

 アルバムのコンセプトについて彼女はこう語る。なるほど、スペシャルズやT・レックスをフェイヴァリットとしながらも、リック・ロスやクークスを最近のお気に入りに挙げる彼女の感性が、懐かしくも斬新な作品を必然的に生み出したのだろう。そんなリリーのワガママな音楽嗜好を、サウンド面でガッチリ支えるのがプロデューサーの皆さんだ。

「フューチャー・カットはイビザに行った時に昔のマネージャーが紹介してくれたの。彼と最初に作った曲が“Smile”よ。マーク・ロンソンは元カレの友人だったから、アルバムを作る前から知っていたし、ブレイアーという人はウェスト・ロンドンにいた時に知り合っていっしょに仕事をすることになったんだけど……あとは、誰と仕事したんだっけ? 忘れちゃったわ」。

 かねてから〈プロダクションや楽器の知識はない〉と明言してきた彼女。60年代のスカやカリプソ、はたまたサーカスで使われるような音楽など、心に留まった音をサンプルにプロデューサーがビートを作り、仕上げに彼女が詞とメロディーを乗せていくというのが制作進行の基本パターンなのだそう。手法はブレイクビーツのそれ。そこに絡む音楽要素は多岐に渡るものだが、総じてポップな印象を受けるのは、言葉選びの巧みさや彼女自身のキャラに拠るところが大きいのではないだろうか。

「もちろんプロダクション的にもかなりおもしろいと思うけど、私の作品はリリックがすべて」。

 隣の女と浮気したクセによりを戻そうと言い寄ってきた彼氏に対して〈あなたが泣いている姿を見ると笑ってしまうの〉と一蹴する“Smile”(実話)を筆頭に、辛辣だけどユニークで、何よりとっても共感できるリリックが並ぶ。それらを時にラップするように歌う彼女は、今までいなかったけど物凄く今っぽいポップスターのオーラを放っているのだ。

〈生まれ変わるとしたら何になりたい?〉という質問に対しては「自分。だって、今の人生が楽しいから」と答え、〈将来の目標は?〉という質問に対しては「私は将来のことを考えたり、目標を持ったことは一度もないの。今という時を楽しめばいいのよ。今が幸せだったらこれからのことなんて心配しないわ」とキッパリ。かっこよすぎるぞ、リリー・アレン!

PROFILE

リリー・アレン
85年生まれ、ロンドン出身のシンガー・ソングライター。父親はコメディー俳優のキース・アレン、母親はスリッツの元メンバー。転校を繰り返した末に15歳で退学し、同時期に歌を始める。18歳の頃から本格的に作詞・作曲を開始。2005年12月にリーガルと契約。並行して〈myspace.com〉にアップしたデモ音源が話題を集め、現在までに100万人以上の試聴記録を残している。2006年4月に7インチ・シングル“LDN”でデビュー。同曲は予約のみでソールド・アウト、続くセカンド・シングル“Smile”がUKチャートで2週連続1位をマークしている。7月に本国でファースト・アルバム『Alright, Still』(Regal/東芝EMI)を発表し、10月4日にその日本盤がリリースされる予定。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年10月19日 19:00

更新: 2006年10月19日 20:21

ソース: 『bounce』 280号(2006/9/25)

文/山西 絵美