Badly Drawn Boy
苦難の末に完成した新作は、キャリア史上もっともポップに開けた一枚に仕上がった!
マジカルなグッド・メロディーを紡ぎ出すことにかけては当代一を誇る英国の酔いどれポップ詩人、バッドリー・ドローン・ボーイことデーモン・ゴフが、実に直球なタイトルを冠したニュー・アルバムを上梓。その名も『Born In The U.K.』(当然彼のヒーロー、ブルース・スプリングスティーンの『Born In The U.S.A.』を意識している)。ところが、ストレートな題名とは裏腹に、本作は苦しんだ末に完成した。実は昨年にも一度アルバムを制作していたものの、結局そのプロジェクトは頓挫してしまったのだという。
「焦っていた。自分がめざす方向に進んでないように感じたんだ。だからそのまま逃げ出してしまったんだよ」。
けれども、やはり失敗は成功の素。すべての曲をボツにした彼は、まるきり白紙の状態から再出発したのだ。
「自分に課題を設けたんだ。それは1日に1曲は作るってこと。そして部分的に歌詞があったりメロディーがあったりするものを、曲として形にすること。だから、この期間には80曲ぶんくらいのアイデアを蓄えたんじゃないかな」。
そこから精査し厳選を重ねたのが、本作に収められた12の楽曲である。そうやって吟味された作品だけあって、悪いワケがないのだ。「このアルバムで僕はより広い世界を包み込みたいと思っているんだ」と語るように、前作『One Plus One Is One』が小説風の私的かつ内省的な作品だったのに比べて、本作はずっとポジティヴで外に向かった仕上がりだ。冒頭を飾る表題曲では英国人としてのアイデンティティーが陽性ポップンロールに昇華。バート・バカラックのポップ魔法を思わせる“No-thing's Going To Change Your Mi-nd”や、今回の相棒=ニック・フラングレン(レモン・ジェリー)の音仕掛けが魅力的な“Without A Kiss”をはじめ、駄曲は一切ない。
「いまは人生において自分がどこまで行けるのか試してみるべき時期なんだ。チャートで1位を獲得するヒット曲が何枚出せるか……とかね。まぁ、それもおもしろ半分だけどさ」。
挫折を味わった男の頼もしい復活劇である。
▼バッドリー・ドローン・ボーイの作品を紹介。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2006年10月26日 21:00
更新: 2006年10月26日 21:37
ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)
文/北爪 啓之