インタビュー

ChesterCopperpot

腕白ピアノ・ロック・トリオによるポップ&ファニーなファースト・アルバム


  映画「グーニーズ」に登場する子供たちが憧れる冒険家、ChesterCopperpotをバンド名に冠するピアノ・ロック・トリオがファースト・アルバム『ファンファーレ』をドロップ。飛び跳ねるピアノ、リズミカルにうねるベース、高らかに鳴るトランペットがキュートにブレンドされたオープニング・ナンバー“start”、ストリングスが加わってドラマティックに生まれ変わった泣きの名作“絶望的夜空”、ピアノ・エモ!? とばかりに鍵盤が暴走する“デスピアノ”……。まるでいたずらっ子のようにくるくると表情を変えるヴァラエティ豊かな楽曲群と、全編をカラフルに彩る美しいコーラス・ワーク。本作には、3人の腕白プレイヤーによる多くの仕掛けがちりばめられている。

  「いい意味でとっ散らかってるアルバムになりましたね。自主制作の時は3人から別の意見が出てもなんとなくまとめに入ったりしてたんですけど、今回はまとめずに、それぞれのアイディアをそのまま入れました。あと今回は石崎光さん(下北沢を中心に活動するピアノ・ロック・バンド、cafelonのギタリスト。スタジオ・ミュージシャンやライヴのサポート・メンバーとしてaikoや真心ブラザーズの作品に参加。ほか、プロデューサーやアレンジャーとしても活躍中)にサウンド・プロデューサーとして参加してもらっているので、4人で一音一音検証……でもないですけど(笑)、丁寧に音を加えていきましたね」(矢野賢太郎/ドラムス&コーラス。以下矢野)。

 「独りよがり的な部分も入れてみたり。もう何でも。オレの汗が染み込んだタオルも全部入れてしまえ~! みたいな(笑)」(伊藤勇二/ベース&コーラス)。

 「ベースはそういうことがありがちですね。でも、それもいいかなと。ホントは普通の音を入れて欲しい時もあるんですけど(笑)」(矢野)。

 「デモの状態の曲が丸い塊だとしたら、そこにふたりがいろんなもの(アレンジ)をくっつけていくんですね。で、それを転がしてみると、デコボコだからどこに転がっていくかわからない。そういうところが面白いですね」(伊藤立/ヴォーカル&ピアノ&ギター。以下立)。

  と、作り手である本人たちも終着点が見えないまま、〈手探り感〉を楽しみつつ進んだ制作過程。そうして完成した本作は、ソングライター=伊藤立がセルフ・ライナーノーツ内で語っている〈ビートルズ・リスペクトなのにクイーン・コーラス……。──“ジョンレモン”〉〈もはや3人バンドであることを完全に無視した曲のつくり方に少し反省。──“星座とワルツ”〉〈間奏のピアノは速度をおとして録音したものをもどした(ビートルズの)“In My Life”風。──“二度とかえらぬ恋の歌”〉などの言葉通り、サプライズ満載の仕上がりだ。次々と耳に飛び込んでくるファニーなサウンドが独特なストーリーを紡ぐ歌詞と結びつくことによって、聴き手にわかりやすく届くポップ・ミュージックへと見事に変換されている。言葉遊びが顕著な前半から叙情的な後半へ。彼らには、歌詞についても何かたくらみがあるようだ。

 「映像が頭にあるんですよ。それを歌詞にしてる感じです。例えば“絶望的夜空”は、最初に道路がドーンと大きく通ってて、そこでおじいちゃんが自転車を売ってるっていうイメージがあって。自分としては映画のオープニングっぽい感じですね。今回のアルバムには入ってないんですけど、“希望的観測機”っていう曲と繋がってるんです。そういう風にわりとイメージがしっかりした曲もあるんですけど……、でも“start”とかは、歌詞だけ読むとワケわかんないと思うんですよ。アルバムの前半の曲は、ただ単純にメロディにのって気持いい言葉をのせていったんですね。あとは逆につまづくような言葉を入れて、ひっかかりを持たせたり。オレら、あんまり意味(があることを歌って)ないですよ、って。そう、はじめに言っちゃってるんですね(笑)」(立)。

  「わりと切ないものが得意……というか、そういう傾向になりがちなバンドなんです。でも、耳で聴いた時に気持いいっていうのは大事ですよね。10ccとかXTCとか、ビートルズとかもそうですけど、単純に聴いて気持いいじゃないですか。後で歌詞を見て〈こんなこと歌ってたんだ~〉って思うことはあるけど、何を歌ってるかっていうところからは入らないと思いますし」(矢野)。

 「後半がちゃんと色まで塗って完成してる絵だとしたら、前半はまっさらな塗り絵みたいなもので。想像が入り込む隙間を作りたかったんですよね。だから前半だけだと、〈意味がわからないからダメ!〉っていう人もいるかもしれない。でもそれを乗り越えてもらえれば、(筆者が)切ないって言ってくれたような、後半の曲に辿り着くんです」(立)。

 名刺がわりとなる初アルバムの入口に〈聴き手が引き返してしまうかもしれない〉という大胆な仕掛けを用意するところこそ、彼らが〈ちょっとひねくれた〉なんて形容される所以。けれど、それは自らが発信する音楽に確固たる自信があってこそ。本作に彼らが施したトリックはそのままマジックとなって、まるで飛び出す絵本のごとく、聴き手の前にファンタスティックでポップな世界を現出させるのだ。

ChesterCopperpot『ファンファーレ』
01. START(試聴する♪
02. ジョンレモン
03. カートレインバスバイセコ
04. コザイム(試聴する♪
05. 絶望的夜空(試聴する♪
06. 二度とかえらぬ恋の歌(試聴する♪
07. エレファント
08. デスピアノ
09. 星座とワルツ
10. FLAG(試聴する♪

※本作はナップスターでも配信中です! こちらからどうぞ。

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2006年10月26日 15:00

更新: 2006年11月10日 22:52

文/土田 真弓