流線形
いつまでも変わらない美しいメロディーの輝き。10年先も聴ける、上質のシティー・ポップ傑作!
確かな耳を持つヘヴィー・リスナーたちから好意的に迎えられ、菊地成孔も絶賛したファースト・ミニ・アルバム『シティミュージック』から3年。クニモンド瀧口のソロ・ユニットである流線形から初のフル・アルバム『TOKYO SNIPER』が届けられた。ヴォーカルに21歳の美大生、江口ニカをフィーチャーした本作は、瀧口のルーツである70年代後半のポップス~AORの空気感が色濃く表出した〈アーバンでクリスタルなメロウ・グルーヴ〉(CDの帯に記されたコピーより)満載の仕上がりとなった。
「前作はシモンズのドラムを入れたりして、思い切り80年代を意識してたんですけど、今回はグッと70年代の後半に近付けてます。あの時代に山下達郎さんや吉田美奈子さんがやっていたことに対するオマージュというか、憧れがあるんですよ。あれこそまさに日本のシティー・ミュージックですよね。(サウンドの)ヴィジョンが明確になるまでには、ちょっと時間が掛かっちゃいましたけどね。マイクの種類、コンプレッサーのかけ方、音の耳触りにも、かなりこだわりました。本物を使うと、やっぱり温かい音になるし……。生のドラム、フェンダーのプレシジョン・ベース、フェンダー・ローズの3つがあれば、ほとんど成立しちゃうんですよね」(クニモンド瀧口:以下同)。
「80年代のキラキラ感がキーワードになってる」という歌詞の世界も魅力的。〈自分探し〉とか、〈生き辛さ〉をテーマにした歌がはびこる現在の日本の音楽シーンにおいて、流線形が描き出すノスタルジックかつクールな都会の風景は、とても貴重だと思う。
「Saigenjiが歌ってる“TOKYO SNIPER”では、あえてそういうフレーズを連呼してもらってます。〈ベイサイド・フィーリング〉とか〈ミッドナイト・チェイサー〉とか(笑)。英語のフレーズじゃなくて、カタカナ英語のカッコ良さ……そういうものがすごく好きなんですよね」。
ここで強調したいのは、『TOKYO SNIPER』は決して〈あの頃は良かったなあ〉という後ろ向きな作品ではなく、2006年のポップスとして強い機能を持っているのはもちろん、時代や流行を超えた普遍性を湛えた、極めてクォリティーの高いポップ・アルバムであるということだ。
「前提にあるのは〈10年後も聴けるものを作る〉ということなんですよ。〈メロディーラインと歌詞〉っていうポップスの根本は変わらないと思うし。まあ、単純に自分が聴きたい音楽を作ってるだけなんですけどね、ホントは。CDをリリースしておいてこんなこと言うのもおかしいんだけど、自分がミュージシャンだと思ったことは1度もなくて、あくまでも〈リスナー〉だと思ってるので」。