インタビュー

Scissor Sisters


 アーティストやミュージシャンが多く住むNYのロウワー・イースト・サイド。その一角で開かれたパーティーで意気投合したアナ・マトロニックとジェイク・シアーズが中心となって、2001年にシザー・シスターズは結成された。そして、艶やかなディスコ・サウンドを21世紀風ポップに解釈したオリジナリティー溢れるファースト・アルバム『Scissor Sisters』で2004年にデビュー。多くのヒット・シングルを生んだ同作は、本国よりもヨーロッパ、特にイギリスで250万枚のセールスを記録するほど大当たり。新人としては異例の大成功を収めた。それは彼らの持つただならぬソングライティング力と、個性的なサウンドのなせる業と言えるだろう。さて、そんなシザー・シスターズが待望のセカンド・アルバム『Ta-Dah』を完成させた。

「最高の曲を書くということ以外、コンセプトはなかった。ライヴ・パフォーマンスをたくさんやったせいで、そこからずいぶんインスパイアされたんだ。〈自分たちはロック・バンドだぞ〉という意識が向上したんだよね。それが新作のサウンドに大きく影響したと思うよ」と語るのは、名前とは対照的なルックス(立派な体格に髭)を持つベイビー・ダディ。

「前作の時と作風は変わっていないんだ。最初はベイビー・ダディのアパートメントで作っていたんだけれど、一日中家に閉じこもっている彼がかわいそうになって、マンハッタンにある素敵なスタジオに移動した(笑)。サウンドには広がりが出て、曲も聴きやすくなったと思うけれど、ホームメイドな質感は保ちたかった。〈プロデュースされすぎて、あまりに完璧な音〉というのは避けたかったんだ」とはジェイクの言葉。この2人がサウンドの鍵を握るバンドの重要メンバーだ。

 デビュー作では享楽的でエレクトロニックなサウンドと反復するビートで聴く者を病みつきにしてくれたが、新作ではビートルズ風のバラードやバンジョーの入ったデキシーランド・ジャズの香りを漂わせた曲を織り込むなど、内容的にぐっと豊かな広がりが出ている。

「今回はNYというビッグ・シティーのサウンドから抜け出して、僕らが愛するアメリカのあちこちに目を向けたんだ。現在のアメリカに住んでいるのは、なぜか不思議な感じがするんだよ」(ジェイク)。

「それにNYっていろんな出身の人間が混じり合っているところでしょ!? 特に私とジェイクは家族のルーツが南部にあって、子供のころからジャイヴやブルーグラスに親しんできたの」(アナ)。

 さらに注目すべき点は、友達であり良き理解者でもあるというエルトン・ジョンが、先行シングルにもなった“Ta-Dah”にピアノで参加しているということ。

「エルトンとは2年ほど前にライヴに招待されたのがきっかけで、急速に親しくなったんだ。新しい音楽に対する彼の情報量は凄いよ。毎週CDを山ほど買い込んで聴きまくっているんだ。僕らとは音楽に対する情熱で結ばれていると言えるかな。〈いっしょにやったら楽しいだろう〉という話から共作が実現したんだけど、結局“Ta-Dah”がアルバムの中でいちばんのお気に入り曲になったよ」(ジェイク)。

 楽しさと昂揚感に溢れたサウンドを保ちながらも、歌詞は日常の人間生活をさまざまなアングルから描いた刺激的な内容へと進展。彼らの鋭い視点が貫かれている。

「愛に溢れるアルバムだと思うの。単に恋愛関係ばかりでなく、人間と世界の関わり方や自分自身の感情との関わり方、自分と音楽の関係性とか、そういった意味で人の心の奥底に訴えかける内容だと思うのよ」(アナ)。

 シザー・シスターズが鳴らすのは、楽しいだけのダンス・ミュージックではないのだ。

PROFILE

シザー・シスターズ
ジェイク・シアーズ(ヴォーカル)、アナ・マトロニック(ヴォーカル)、ベイビー・ダディ(キーボード/プログラミング他)、デル・マーキー(ギター)、パディ・ブーム(ドラムス)から成る5人組。2001年にNYで結成。ほどなくしてライヴやレコーディング活動を開始するが、〈9.11〉の影響で活動の拠点となっていたライヴハウスやクラブが次々と閉鎖される。2003年、ロンドンでのパフォーマンスをきっかけにポリドールと契約。2004年1月にファースト・アルバム『Scissor Sisters』でメジャー・デビューを果たす。同作はUKだけで250万枚のヒットを記録し、全英アルバム年間セールスNo.1を獲得。このたびセカンド・アルバム『Ta-Dah』(Polydor/ユニバーサル)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年11月09日 00:00

更新: 2006年11月30日 23:22

ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)

文/高野 裕子