インタビュー

JAPANESE SYNCHRO SYSTEM


「どんなダンス・ミュージックでも、結局そこには愛と平和のメッセージしかない。そして、ずっとそれだけを繰り返し言い続けてるのは、いくら言っても足りないから。1曲に込められているメッセージは小さいけど、DJが一晩に掛ける曲を全部を合わせれば、ちょっとは大きくなる。それを積み重ねても積み重ねても、人の心を動かすにはまだまだ足りないんだ」(ILL-BOSSTINO)。

 JAPANESE SYNCHRO SYSTEM(以下JSS)は、CalmとILL-BOSSTINOによるプロジェクトである。東京と札幌。拠点を異にして活動するふたりは、70年代後半から90年代初頭までのダンス・ミュージックに対する深い愛を媒介として共振し、シンクロした。最初の出会いは99年。6年以上におよぶ親交は、自然な成り行きでコラボレーションへと発展していった。

「4日間で曲の骨組みとかを全部作った。いっしょに遊びながら、ガンガンに。で、1年掛けて煮詰めた」(ILL-BOSSTINO)。

「パズルのピースは最初の段階で出揃っていたから、それを1年掛かりで組み立てて1枚の絵にしていった感じ」(Calm)。

「作業には難しい部分もあったね。それだけ手間も時間も掛けた。当初は(アイデアを)入れられるだけ入れていったけど、それを削ぎ落としていく時期も長くあって。消えていった断片も山ほどある。でも、すべては起こるべくして起こったことだと思ってる」(ILL-BOSSTINO)。

 JSSのファースト・アルバム『THE ELABORATION』には、膨大な量の多種多様な素材が盛り込まれている。それはまるで、シンクロしたふたつの才能が脳内から迸る音の要素を持ち寄っては縫い合わせた、大いなるダンス・ミュージックの綴れ織りのようだ。そこにはドープなドラムもあれば、美しく静謐なピアノもある。ブルース・ハープが唸り、シルキーなフルートが流れ、雷鳴のようにシンバルが弾ける。さらに、ストリングスは甘美な嵐の如く鳴り響く。

「ストリングスに関しては、サルソウルの黄金期の音とかからインスパイアされてる。だけど、それをいまやることにはそれほど特別さは感じていない」(Calm)。

「奇を衒わずに、できるだけスタンダードをやったつもり。極端に古いスタイルでもなく、極端に新しくもない。誰が聴いても何かしら感じ取れるもの。いまのダンスフロアで〈クラシックス〉と呼ばれているような、クォリティーの高い音楽に挑戦してみたかった」(ILL-BOSSTINO)。

〈あの頃〉の音がいまもスタンダードとして燦然と輝く札幌のダンスフロア。そこでダンス音楽経験値を高めてきたILL-BOSSTINOは、古典作品のグルーヴに不滅の生命力を見い出し、それこそが彼にとってのリアルタイムな超主流だと断言する。

「僕は楽器もサンプラーもできないんだけど、今回Calmさんやバンドの人たちといった、ものすごいミュージシャンの生音でやれたのは最高に楽しかった。イメージどおりに弾いてくれる人を総動員できたし」(ILL-BOSSTINO)。

「生楽器はハマった時がすごい。機械では絶対に敵わない」(Calm)。

「(村上)ポンタさんのドラムなんて、ほんと強烈。しかも、あれにグルーヴを合わせられるベースやピアノの人がいる。それはもう相当にマジカルだった」(ILL-BOSSTINO)。

 ふたつの才能がシンクロし、生々しく躍動するグルーヴがシンクロした。さて、その先にあるものは何か。

「調和の取れたダンス・ミュージックを作りたかった。だから、(制作作業も)調和が見い出せた時点で止めた。そして、こういう名前でやる以上は、聴き手が入り込める余地もあらかじめ作っておくべきだと思った。基本的に、どの曲でも愛と平和のことしか言ってないんだ。でも、平和って実際とても曖昧な状態で。明確に〈白か黒か〉ではない曖昧さ……それが平和だったりする。そういう意味では、曖昧さや中庸さも併せ持つ調和の取れた音でこそ、平和は表現できるような気がする」(ILL-BOSSTINO)。

 JSSのシリアスすぎないシリアス・ダンス・ミュージック。深い川の水が澄み切ったとき、すべてがシンクロする。終わりが始まりに繋がり、物語はひとつになる。

PROFILE

JAPANESE SYNCHRO SYSTEM
THA BLUE HERBのMCであるILL-BOSSTINOと、Organ LanguageやK.F.名義でも作品を発表するCalmから成るダンス・ミュージック・ユニット。99年に福岡のライヴ会場で初めて出会い意気投合。2000年にはコンピ『響現』に収録されたBOSS THE MC meets CALMの“CREATER'S DELIGHT”で初の共同制作を行う。その後、ILL-BOSSTINOは2004年にHERBEST MOON名義でアルバム『SOMETHING WE REALIZED』を発表したりと個々の活動を展開する一方で、互いの交流も深めていく。そして2005年の夏から本格的に共同制作をスタートし、今年9月にシングル“THE FOUNDATION”を発表。11月3日にファースト・アルバム『THE ELABORATION』(LIFE LINE)をリリースする。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年11月09日 00:00

更新: 2006年11月09日 21:52

ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)

文/安藤 優