インタビュー

Ken Ishii

あらゆる音楽の要素を詰め込んだハッピーなムード満点の新作は、テクノに対する真摯でポジティヴな姿勢が滲み出た原点回帰の傑作!!


 KEN ISHIIによる4年ぶりの新作『Sunriser』が素晴らしすぎる。テクノDJとして世界各国を飛び回ってきた実績を見事にフィードバックさせた快作だ。ポジティヴでエネルギッシュ、そしてキラキラと輝く光の粒が集まったかのような本作は、〈テクノ好きでいて良かった〉と心の底から思わせてくれる。

「海外でDJをやっていると、テクノに元気がないことに気付かされるんです。いま海外のシーンでは、テクノ=ハード・ミニマルなもので、すでに行き着くところまで行ってしまったような傾向が強い。もちろん、いま向こうでもてはやされているリッチー(・ホウティン)とかがプッシュするような曲についても、僕にとってはテクノという音楽の一部なんだけど、若いファンやジャーナリストの間では、ハード・ミニマルだけがテクノだ、と認識している傾向があるのかもしれないな、と思うことがあって。僕はテクノに対してもっと自由な音楽、という印象を持っているので、あくまで自分の原点である広い意味のテクノをプレイしていきたいし、そんなテクノにこだわりたいんです」。

 彼にとっての〈テクノの原点〉とは、デトロイト・テクノのことを指している。

「自分が聴いてきたテクノという音楽は、自由で幅広くて音楽的なものだった、ということをアピールしていきたいんです。だから『Sunriser』を聴いてくれた人に〈これはテクノじゃない〉と言われることがあったとしても、〈いやこれが自分にとってのテクノなんだよ〉と言えるような作品になったと思う。極端に言えば、全編アカペラで作ったって、僕がやればテクノなんですよ。そういうメンタリティーでやってるから」。

 彼をはじめ、数多くの人たちの人生を変えるほどのパワーとスピリットがあった音楽の原点に戻り、そこに15年のキャリアで培われた、彼らしいブライトでポップなセンスを注入した100%混じりけなしのテクノ。オーソドックスな4つ打ちからラテン、ファンク、静謐なアンビエント、そしてエレクトロニカまで……とサウンドは多彩。そこに澄んだ音色の華やかな上モノが加わり、デトロイティッシュな叙情性が散りばめられる。キーワードは〈ハッピー〉だ。

「長い間音楽やってるなかで楽しいことも辛いこともあったけど、いろいろ経験するなかで、細かいこだわりはなくなってきて、音楽を楽しめるような心境になってきた。だから、これからも負のパワーじゃなく、正のパワーを表していきたい」。

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掲載: 2006年11月09日 00:00

更新: 2006年11月09日 21:09

ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)

文/小野島 大