インタビュー

Adrian Sherwood

3年ぶりの新作は、これまでの歩みを繋ぎ合わせた100%エイドリアン印の一枚!


「まだ自分がアーティストっていう意識はなくて、アーティストと呼ばれること自体とても不思議な感じがしているんだ」。

 どこぞの新人アーティスト?とでもいった発言だが、こう話すのは、79年にOn-Uを立ち上げてUKダブの新たな地平を開拓する一方、プライマル・スクリームなど多種多様なアーティストたちとも共演を重ねてきたプロデューサー/ダブ・クリエイターのエイドリアン・シャーウッド。UKの音楽シーンで確固たる地位を築いている彼だが、自身名義のアルバムは2003年の『Never Trust A Hippie』が初めて。30年ほどのキャリアで2作目となるこのたびの新作『Becoming A Cliche』は、「前作がサンプルとインストゥルメンタルを中心にしたアルバムだったから、今回はヴォーカルと生楽器を多用したアルバムを作りたかった」と話すように、新旧さまざまなシンガーやDJが集った作品となった。

「今回のアルバムでは自分のキャリアのなかで出会ってきた人、知り合いとしかやりたくなかった。今まで尊敬していた人たちや家族、友達を集めて作ったからね。まるで夢のようなアルバムが出来上がって本当に最高だよ」。

  あのルーズな語り口でアルバムの幕開けを飾るリー・ペリー、コンシャスなメッセージをドロ臭い歌声に乗せて届けるリトル・ロイ(彼参加の“A Piece Of The Earth”にはラガ・ジャングルの始祖、コンゴ・ナッティも参加!)、2曲で参加しているLSKや相変わらず不穏な佇まいのマーク・スチュワート、マイナー・ルーツ系のワンドロップ・リディムに乗るサミア・ファラー、重鎮デニス・ボーヴェル、ドクター・パブロやスキップ・マクドナルドといったOn-Uの面々……そのメンツを眺めていると、彼のこれまでのキャリアを総括したようにも思えてくる。

「まさにそうだね。俺がこれまでにやってきたことを繋ぎ合わせてアルバムを作りたかったし、単純に自分のショウでプレイできる音楽を作りたかった。だから、ジャマイカ音楽の幅広いエレメンツが含まれる感じになったんじゃないかな」。

 ひとつひとつのエレメントを拾い集めていけば、ダブ~ルーツ・レゲエ~ダンスホール~ジャングル~ヒップホップなどの破片が転がるこのアルバム。だが、前作が中近東~アフリカ~アジアなど各地の音楽要素を盛り込んだオリエンタル・ダブ作品となっていたように、今作もまたジャマイカ音楽から大きく逸脱する瞬間がある(例えば、ヒップホップ・ビートにオリエンタルなフレーズが乗った“All Hands On Desk”など)。それでもなお、漂うムードはエイドリアンのフィルターを通したジャマイカ音楽のそれ。その手捌きの見事さといったら……彼はこうも言う。

「やること、やるべきことは変わらない。自分のサウンドとスタイルがあって、仕上がりに満足できればそれでいいんだ」。

 なお、UKとジャマイカを股に掛けるジャズワドや、〈Diwali〉リディムで知られるレンキーといったダンスホール系トラックメイカーも参加してモダンなスパイスを加えていること、そして今作が聴き手のレゲエ観すらひっくり返しかねないオリジナリティーに溢れていることを最後に付記しておこう。『Becoming A Cliche』、このアルバムは凄い。
▼エイドリアン・シャーウッドの作品を紹介。

▼『Becoming A Cliche』に参加したアーティストの作品を紹介。


サミア・ファラーの2000年作『Samia Farah』(Sony France)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年11月16日 22:00

ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)

文/大石 始