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インタビュー

VARIOUS

大物アーティストのミステリアスな変名? ネット上にしか存在しないキャラクター? いやいや、正体不明の彼らは本当に存在したんです……っていうか、アンタは誰だ


 3枚の7インチ・シングルで、トム・ヨークやビョークといったトレンドセッターたちをトリコにし、辛口の英国メディアも絶賛の嵐。ワープやプラネット・ミュー、リーフなどメジャー/インディー入り乱れてのレーベルによる争奪戦が繰り広げられた結果、新機軸で勢いに乗る老舗のXLが見事契約を勝ち取ったという破格のニューカマーが、このヴァリアス(アーティスト名)だ。バンド名やユニット名の一部として〈アーティスト名〉との註釈が表記されるのは、ニホンの洋楽史上、間違いなく初めてのことだろう。

「ネーミングしたというより、おのずとこうなってしまったんだ。最初はアーティスト名もいらないと思ってたんだよね。でも、アナログ盤をリリースするにはどうしても必要で、そのデモ盤に〈Various Productions〉というメモが書いてあったから、それをそのまま使ったのが始まりなんだ」。

 そう語るのは、イアンなる人物。ヴァリアスの1/2である。風変わりなアーティスト・ネームのインパクトもさることながら、彼とアダムなる人物による2人組であること以外、まったく素性があきらかにされていないという実にミステリアスな存在なのだが、このたびファースト・アルバム『The World Is Gone』をリリースした彼らを、幸運にもキャッチすることができた。

「メディアと一定の距離を保っているのは、自分たちの音楽とアートだけをクローズアップしてほしいからさ。俺たちがどんな顔をしていて何を着ていようと、作品にはあまり関係ないしね。俺たちがやっていることは、どちらかというと普通のことだと思うよ。新人だから、語るべき過去もないし」(イアン)。

 そんな佇まいは、現在のシーンに対するアンチとしての匿名性やプロテクションから生まれたものというよりは、もっと透明度の高い、ピュアなクリエイティヴィティーを感じさせるものだ。そして、そのサウンド・スタイルは、ダブ・ステップやグライムといったアグレッシヴなブレイクビーツ・ミュージックに立脚しつつも、メランコリックなメロディーラインやアンニュイな女性ヴォーカル、ヴィジュアルへの徹底した美意識などから〈次世代のマッシヴ・アタック〉とも評され、フォークトロニカ~フリー・フォーク的な歌心をも覗かせる。〈Various(さまざまな)〉というネーミングそのままに、自由度の高い圧倒的なレンジの広さがヴァリアスの個性であり、おもしろさでもあるのだ。

「俺もイアンもメロディアスなものが好きだから、どんなに強いビートを使ってもメロディーを大切にしたいんだ。ひとつのスタイルにハマらないように意識しているし、重要なのは、意図的に〈ここをめざそう〉というものを作らないこと。音楽は、自然と自分の表現を見つけてくれるからね」(アダム)。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年11月16日 18:00

更新: 2006年11月16日 21:42

ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)

文/河野 有紀