COBURN
キャッチーなメロディー、腰を抜かすほどファットなビート、そして痙攣のような独特のカットアップ処理。2005年のフロアを席巻したド級のアンセム“We Interrupt This Program”で一気にダンス・シーンのド真ん中へと躍り出たピート・マーティンとティム・ヒーリーによるバンド・ユニット、コバーン。そんな彼らがみずからのパブリック・イメージを鮮やかに置き去りにする素晴らしい〈飛躍〉のファースト・アルバムを完成させた。それが『Coburn』だ。
「自分たちをバンドとして考えたアルバムにしたんだ。クラブ・ミュージックとしてというよりも、自分たちがふだん聴きたい音楽――それがロックンロール、R&Bとかサウンドトラックといったもののミクスチャーだったんだ」(ピート)。
その衝撃はイントロを経て鳴らされる“Sick”や中盤の“Tallulah”で示される。前者はMCハマーとディー・ライトをマッシュアップしたような、ドリーミーなポップ・チューン。後者はカーディガンズ好きも唸らせるアンニュイでメロウなトラック。これまでの彼らとはあきらかに異なったアプローチだ。
「僕らは他のアーティストに楽曲提供をしたり、映画の曲も手掛けるプロデューサーだからね。だから今回はミュージシャンとして楽器を使ったりした。7、8分のフロア向けの8曲にまとめるよりも、2、3分の幅広いアプローチでアルバムを作りたかったんだ」(ティム)。
ソウルフルで美しいダウンテンポ“Edge Of A Knife”から、大きなステージが似合うロック・チューン“I Get My Kiss”までアルバムはまさに何でもあり。そのように幅広い2人のサウンドのルーツを探っていくと、みずからが活躍していたゴア/サイケ・トランス・シーンを経て、その源流にあるレイヴ・カルチャーへと辿り着く。
「レイヴ・カルチャーからは、何千人も集まる大きなパーティーから50人程度の友達が集まる小さなパーティーまでどうやれば盛り上がるかっていう、現場を読む力を得ることができたね」(ピート)。
「(トランス・シーンにいたことは)罪深いことだよ(笑)。でも、その後にプログレッシヴ・ハウスに向かって、(ダニー・)テナグリアやサーシャと制作も手掛けて、僕らはバンドとしてハウス・シーンで進化をしてきた。罪深いってのは半分本気で半分ジョークなんだ。そういった過去には本当に感謝している。なんせ世界を回っているなかで、同じジャンルにこだわって自分を制限してしまうことに疑問を感じることができたんだからね」(ティム)。
何より、当時のレイヴ・シーンが素晴らしかったのは、ひとつのパーティーであらゆる音楽が鳴らされていたということだ。その影響について訊くと、彼らは熱っぽく語り出す。
「そう。いまの僕らがやっていることはまさにそれなんだよ! 僕らがDJする時ってエレクトロ・ハウスやピュア・ハウスだけをプレイするわけじゃない」(ピート)。
「ブレイクス、テクノ、ハウス、フリースタイルで幅広いもの。いまではフレッシュなグライムやドラムンベース、BPM174のクレイジーなものまで、いろんなものをDJプレイに織り込んでいるよ。そういう活動がいろんな楽曲を制作することにも繋がっているんだ」(ティム)。
ドナ・サマーへの愛がダダ漏れな“Give Me Love”、コーナーショップ“Brimful Of Asha”のノーマン・クック・リミックスを思わせる“Baby Boomer”などのハッピーなダンス・チューンももちろん収録。セルジュ・ゲンスブールとファットボーイ・スリムの邂逅? それともふたたび訪れたクロスオーヴァーの時代に捧げる痛快な祝砲? エレクトロもトランスも関係ない。ジャンルの壁を蹴り飛ばせ! ピートとティムの底なしのセンスが爆発する『Coburn』は、最高に楽しい季節がやってきたことを僕らに告げている。
PROFILE
コバーン
ピート・マーティンとティム・ヒーリーによるエレクトロ・デュオ。マーティンはキャス&スライドなど、ヒーリーはエレクトリック・ティーズなど、それぞれ複数の名義/ユニットにてトランス~プログレッシヴ・ハウス界隈で名を馳せた両者が、スライド&ヒーリー名義での共作などを経て結成。2003年に『How To Brainwash Your Friends EP』をマーティン主宰のフロンティアからリリース。2005年、“We Interrupt This Program”の大ヒットで脚光を浴びる。今年に入って初の来日公演を行い、ミックスCD『Coburn Presents Addict』を発表。さまざまなリミックス仕事や〈フジロック〉登場を経て、このたびファースト・アルバム『Coburn』(Great Stuff/KSR)をリリースしたばかり。