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インタビュー

Mic Jack Production


 4MC+3DJという大所帯であるにも関わらず、MIC JACK PRODUCTIONという集合体から感じるのは、従来のヒップホップ・グループとは少し違った匂いだ。

「誰がというわけでなく、ヒップホップのライヴを観ていて自分的におもしろくない、と感じることが多々ありまして。〈なんでもうちょっとおもしろくできないの〉と。ピューンと切って〈次の曲は……〉みたいなパフォーマンスではなくて、僕らは音楽の流れとか、クラブ・プレイとか、オーディエンスが踊るための仕掛けを意識しているので、構成は最大限まで練りたい。聴いている人たちが〈あれ、もう最後まで踊り切ってしまったよ〉という感覚になればいいと思うんです」(HALT.)。

 ストレートかつ含蓄のあるラップも、ハウスやレゲエも呑み込んだ懐の深いプロダクションも、広い意味でのダンス・ミュージックに奉仕するのだという思いに貫かれている。それゆえに彼らの姿は、個性を競い合うソロ志向の強いMCやDJだけが揃ったクルーとは違って、まるで有機的に繋がるバンドのようにも映るのだろう。

「ラッパーとDJ陣は常にフィフティー・フィフティーな関係を作っていますね。お互いが合わせていくことは損にはならないし、普通のことだと思います」(HALT.)。

「合わせていくことが、1曲のテーマなりコンセプトなりを消化していくことになるわけですし。あと、フリー・セッションっぽいライヴを毎月1回は必ずやっていて、ずっと何年も続けています。そういう経験が反映されているかもしれませんね」(INI)。

 彼らがリリースしたニュー・アルバム『Universal Truth』からは、確かにそんな背景が見え隠れしている。もちろん、幾多の予期せぬ出来事を経て完成し、メンバーが口々に「奇跡のアルバムかもしれない」と言う本作を語るには、B.I.G JOEという〈不在の中心〉に触れないわけにはいかないだろう。オーストラリアの刑務所に服役中の身であるが、そこがたまたまスタジオを備えた恵まれた環境にあり、テクノロジーの恩恵も受けて、彼も制作に十分関与したアルバムを完成させることができた。

「手紙や電話でやり取りをすることで、お互いの距離をより強く意識することができるので、そのぶん逆に、近くにいる者同士よりも丁寧にコミュニケーションを取ることができた、というのはあったかもしれません」(LARGE IRON)。

「手紙のやり取りでかなり細かいコンセプトを伝え合って、お互いの意見でそれをよりシャープにしていったり……」(INI)。

「個人個人が電話で話をしたりね。日本の刑務所に入っていたらできなかったことだとは思うんですよね」(HALT.)。

 録音ができる刑務所という特異な場所にいられたのも偶然であり、今後そこにずっと留まれる保証もないという。ただ、そのチャンスを互いが逃さなかった。「いない、ということをうまく消化できたと思う」(KEN)という『Universal Truth』には、制約があったがゆえの音楽的な緊張感が全編に漂っている。もちろん、ダンス・ミュージックとしての心地良さをベースにしながらだ。安易に〈ジャンルレス〉と形容することには抵抗を覚えるのだが、このアルバムの根底には、多様なリスナーを惹き付けるに十分なヴァイブスが溢れている。それはきっとジャンルの囲いを軽妙かつ力強く抜け出ていくことだろう。

「ヒップホップのアルバムですけど、普段ヒップホップを聴かない人でも共感できる部分がたくさんある作りになっているので、そういう人が僕らの音なり、リリックなりを聴いて、それで希望を持ったり夢を持ったりして毎日を暮らしていってもらえれば嬉しいな、と。また、少しでもその糧になれればいいなとも思います」(JFK)。

PROFILE

MIC JACK PRODUCTION
MCのB.I.G JOE、INI、LARGE IRON、JFK、DJ/トラックメイカーのDJ DOGG、KEN、HALT.から成るヒップホップ・グループ。99年、札幌を中心にそれぞれソロで活動していた現メンバーの7人と、SHUREN the FIRE、AZ FUNKの9人で結成。コンピ『J線上のエリアケースSP』参加を経て、2002年にファースト・アルバム『SPIRITUAL BULLET』をリリース。2003年にB.I.G JOEがオーストラリアにて逮捕されるが、2005年にはEP『ExPerience ill dance music』とB.I.G JOEのソロ・アルバム『THE LAST DOPE』を発表する。今年に入って、10月の『Vertigo E.P.』を経て、このたび、セカンド・アルバム『Universal Truth』(ILL DANCE)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年12月07日 22:00

ソース: 『bounce』 282号(2006/11/25)

文/原 雅明