インタビュー

SHAREEFA


「“Need A Boss”は、私がどんな男性を求めているのか説明した曲。ボスみたいな人がいい、ってね。ボスっていうのは、真剣に目標を持っていて、自分の求めるものには自分からガンガン向かっていく人のこと。私も自分の目標に対しては貪欲だから、相手もノロノロしてる人じゃダメなのよ」。

 自身のヒット・シングルについて、このようにビシッと説明するシェリーファ。リュダクリス率いるディスタービング・ザ・ピース(以下DTP)初の女性シンガー――いまのところはそう形容されるべき彼女だが、復調著しいロドニー・ジャーキンスのプロデュースによる“Need A Boss”での彼女は、そこに止まらないディープなポテンシャルを感じさせるものだった。

 で、そうした〈濃い口〉な歌声は、彼女の経歴と関係があるのかもしれない。ノースキャロライナで育った彼女は、10代半ば頃には荒れた生活を送っていたこともあるそうで……和風に言えばヤンキーっぽいとでもいうか、とにかく歌に込められた気合いが違うのだ。

「人生は楽じゃないし、経験して学ぶものよ。私も現実を知る必要があったの。17歳の時に目覚めたわ」。

 幼い頃から夢見ていたシンガーへの道を選ぶことで、進むべき方向を定めたシェリーファ。あのテディ・ライリーに才能を見い出された後、「ハーレム114丁目の道端で歌わされたのよ(笑)」というオーディション(?)を経てリュダクリスに紹介された彼女は、晴れてDTPの一員となった。それから今回のファースト・アルバム『Point Of No Return』までは足早だったものの、決して先述のヒットに引きずられたインスタントな作品には終わっていない。

「初めてスタジオに足を踏み入れた瞬間から、どうにかしてクラシックな作品を作ることがゴールになったのよ」。

 そんな意気込みがハッタリじゃないことは、イントロに続く“Cry No More”で不器用にビートを跨ぐマッシヴな歌い回しを聴いただけでわかるし、聴き終える頃にはアルバムが備えた十分すぎるほどの風格に驚かされるはずだ。作品全体のトーンはメアリーJ・ブライジの名作『My Love』(94年)やフェイス・エヴァンスの『Faith』(95年)をどことなく感じさせるものだが、これは両作に深く関わったチャッキー・トンプソンが多くの曲でプロデュースを手掛けていることにも起因するのだろう。

「メアリーからノトーリアスBIGに至るまで、チャッキーは長く愛される音楽をクリエイトできるの。20年後でも聴き続けられるような、ソウルフルなサウンドをね」。

 サラーム・レミ制作の“How Good Love Feels”がモロに『My Life』調の曲だったり、意図的なハンドリングもあるとは思う。それでも、彼女が単なるメアリーのフォロワーに終わっていないのは明白だ。特に、大部分を彼女自身が手掛けた生々しい詞世界は、シェリーファという個性を明確にするエッセンスのひとつだろう。自身のソングライティングについて彼女はこう説明する。

「トラックが私に話しかけてきて、喋り返したくなることがよくあるの(笑)」。

 そういう意味では、彼女とトラックはずいぶんエグい会話を交わしたようで、「仲良くしてたけど、結局は友達なんかじゃなかったっていう偽善者についての歌」だという“Phony”をはじめ、彼氏以外の男と浮気して悩む“I Wonder”、痛みの多い恋愛から羽ばたきたいと願う“Butterfly”などなど同性の共感を得そうなディープな楽曲は、実体験をベースにしたものばかり。もちろんそうしたドロドロ系ばかりじゃなく、DTP仲間のボビー・ヴァレンティノとデュエットしたロマンティックなスロウ“Hey Babe”のような曲もあるのだが、いずれにしてもロウなリリックをファットなビートに乗せ、ゴツゴツした泣き節で歌い込みまくるのだから、もう絶品としか言えない。

「ストーリーは山ほどあるわ。本にでもできそうなぐらい。私はただ、ありのままを出してるの。偽ったイメージなんて付けたくないし、私自身でいるだけよ」。

 生身でぶつかってくるシェリーファに抵抗する術は、もはやなさそうだ。

PROFILE

シェリーファ
84年生まれ、ニュージャージー出身のR&Bシンガー。本名シェリーファ・クーパー。ノースキャロライナに育ち、ティーンの頃には刑務所入りも経験するが、17歳の時に更正して本格的にシンガーへの道を志すようになる。テディ・ライリーに見い出されたもののデビューには至らず、リュダクリスの前で行ったパフォーマンスが認められてディスタービング・ザ・ピースと契約。2005年のレーベル・コンピに登場した後、今年に入ってシングル“Need A Boss”で正式にデビューを果たす。同曲のヒットや、ショウナやリュダクリスへの客演を経て、このたびファースト・アルバム『Point Of No Return』(Disturbing Tha Peace/Def Jam/ユニバーサル)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年12月14日 23:00

ソース: 『bounce』 282号(2006/11/25)

文/出嶌 孝次