インタビュー

MUSIC FROM THE MARS

壮大なスケールの〈うた〉を獲得したミニ・アルバム

  複雑なコード進行と変拍子、1秒先の読めない曲展開……そんな難解な要素たっぷりのサウンドを、抜群の演奏力で見事に血肉化し、ポップ・ミュージックとしてさらりと再生してみせる4人組、それがMUSIC FROM THE MARSだ。10年近いキャリアの中でバンド・アンサンブルに磨きをかけ、各地のライヴ・ハウスを熱狂のるつぼへと変容させてきた彼ら。2005年のファースト・フル・アルバム『Summery』を経て、この度リリースされる4曲入りミニ・アルバム『Living in the zoo』では、プログレからシティ・ポップまでを飲み込む雑食的な音楽性をすっきりと消化。音のポイントを絞ることで、これまで以上に腰の据わった、線の太いグルーヴを描くことに成功している。

 「前作はバラバラな時期に作ったものの集大成だったんですけど、『Living in the zoo』の楽曲は、ほぼ同時期に作ったものなんです。それで音が整理されてるような印象を与えるのかもしれない。あと今回は、歌と管楽器以外は一発で録音しました。チマチマ録り直してるとグルーヴが壊れちゃうことも多いので。それに僕らはやっぱりライヴ・バンドなんですよね。ライヴが良いって言われることが多いから、だったらライヴで録ろうと(笑)」(藤井友信/ヴォーカル&ギター、以下同)。

  ライヴのポテンシャルを注ぎ込むことで生まれたダイナミズムに、さらなる広がりとポップな手触りを与えているのが、藤井のヴォーカルだ。もとよりメロディを重視し、〈歌ものプログレ〉なんて形容されることも多かった彼らだが、本作では、もはや〈歌もの〉という前置きが馬鹿らしくなるほどに、歌が自明のものとして作品の中心を貫いている。藤井は大きくのどを開き、極太の毛筆書体を思わせるソウルフルな歌を響かせる。

 「僕はソロでも活動していて、そっちではもっとストレートな歌ものをやってるんです。最近は、そのソロの感じをバンドに取り入れるようになってきた。先鋭的な音楽だけじゃなくて、心にグッと響くようなものがかっこいいなと今は思っているので。ヴォーカルに関しては、最近、僕の理想を上手く表現した言葉を見つけたんですよ。女性のソウル・シンガーを〈ストロング・スタイル〉って形容しているのを何かで読んで、これだ! 僕のヴォーカルは〈ストロング・スタイル〉で行こうと(笑)」。

 その〈ストロング・スタイル〉なヴォーカルが最も痛快に炸裂しているのが、冒頭を飾る“サーカス”だ。〈ロック〉のど真ん中に仁王立ちしつつ、両足の先が〈ロック〉からはみ出てしまっているようなこの曲は、そのスケールのデカい曲調といい、シンプルな8ビートの骨格といい、これまでの彼らにはないポップな可能性をたっぷり孕んでいる。

  「変わったものをあえてやろうっていう意識はないんですよ。ポップなもの、自分の考えが人に伝わるものを作ってるつもりでいて、それはずーっと変わらない。ただ、メンバーのスキルが上がって来る中で、普通の8ビートでもかっこいいフレーズが叩けるようになったし、単音でもかっこいいベース・ラインが鳴らせるようになったということですね。ただ“サーカス”については、メロウな歌ものへの挑戦というところで試行錯誤があったのも確か。だから録音する前日まで色々と練り直して〈もう入れるのやめるか?〉っていうところまでいって、ようやく完成した。僕らとしてはこれを一番聴かせたかったんです」。

 そんな七転八倒っぷりも生々しく刻み込まれているためだろうか、本作には過剰に思えるほどのエモーショナルな空気が充満している。壮大なメロディと展開を重ねていくその叙情っぷりは、もはや〈泣き〉と言ってもいい。

 「この間、カーペンターズの日本武道館公演のDVDを観たら、ドラムなんて歌の途中でフィル・インするし、みんなものすごく弾けてるんですよ。僕は音楽にそういう瞬間を求めてるんです。思わず声が裏返っちゃった、とかね。聴きやすくてクールな音楽よりも、男らしくて汗の匂いのするものが好きなんです」。

 スタイリッシュな振る舞いで小さくまとまろうとする音楽が幅を利かせる昨今。この堂々たる〈泣き〉はダイレクトに聴き手の胸を打つはずだ。

MUSIC FROM THE MARS『Living in the zoo』
1.サーカス(試聴する♪
2.ascension from the HELL(試聴する♪
3.Fish and Flower (試聴する♪
4.texture of tomorrow

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2007年01月25日 14:00

更新: 2007年01月25日 20:23

文/澤田 大輔