インタビュー

ジン


 彼らのファースト・シングル“雷音”を聴いた時には驚いた。轟音と共に疾走するヘヴィー・ロック、静と動とが交錯するドラマティックな展開、独特のファンクネスを感じるギター、そしてジェンダーを超えた強力なパワーを放つヴォーカル。“マラカイト”“解読不能”と順調にリリースを重ねてきたジンが、いよいよファースト・アルバム『レミングス』を完成させた。平均年齢20歳の渾身の主張だ。

「“雷音”とかはハードなイメージがあったと思うけど、このアルバムを聴けば俺らのやりたいことがわかってもらえると思う。好き勝手にやりました。自信はあります。〈俺は凄いぜ!〉ということじゃなくて、これは良い作品だ、という自信があります」(ハルカ)。

「自分で聴いて〈凄えな〉と思う。チャレンジもいっぱいできたし、凄く成長できた。メンバーのおかげですね。〈うわ、何これ!〉とか思いながら、1時間ぐらいセッションをやったり、そうやって曲を作ってるから。お互いに刺激し合ってます。変な話、もうセカンド・アルバムが作りたいんですよ。いつでも出せる。〈他にもこういうのがあるんだよ〉って」(もとき)。

 若いエネルギーと表現力が直結した、メロディックでオルタナティヴな曲がウリだ。でもそれだけじゃない。映画音楽のようなドラマ性を帯びた“レミングス”をオープニングとして、全13曲に決まったルールはない。ハルカの弾くヴァイオリンをフィーチャーした静かな“26 Other side”、アコースティック・ギターがメインの“√135”、三線が大陸的なメロディーを奏でる“みこと”、絶妙なテンポで軽くスウィングする“片瞑り”、さらに壮大なスロウ・ナンバーの“薄夕湖”と、風景や温度、匂いを巧みにサウンドで表現した美しい曲が続く。

「ロック・バンド、って言われてるけどよくわからない。〈そうなんだ?〉って。ジンはジンだな、って感じです」(ひぃたん)。

 歌詞はすべてひぃたんが書く。幼い頃からの読書好き。役者を志し、劇団を組んで活動していた経歴を持つ彼女の表現意欲はハンパない。科学用語のような文学用語のような、独特の語彙を豊富に駆使して、いまここにある感情をズバズバと切り取って描き出す。

「演劇の台本を書いたりしてたから、言葉に対する興味があるんです。〈こういう言い方をすればこういう景色が見える〉とか。風景や自然が凄く好きなんで、そういうものを思い起こさせる言葉を考えるのが好き。あと〈生きる〉ということを常に考えていて。〈どう生きるか〉とか、それをずっとテーマにしてます。投げっぱなしですけどね(笑)。曲に関しても、受け取る人のモノになってほしいんですよ。こっちは好き勝手やるから、好き勝手に解釈してほしい。あたしが作った時の気持ちと受け取り方が違っても全然イイ」(ひぃたん)。

〈レミング〉とは日本名で〈タビネズミ〉。ヨーロッパで数年に1度大発生し、最後は海に突っ込んで死ぬ動物だ。一説によれば〈遺伝子に記憶された夢の島〉をめざして衝動のままに走るのだ、という。「バンドマンに似てると思って」とひぃたんは笑う。

「凄い売れて〈天才〉と呼ばれて……というところに辿り着けるバンドはひと握りだけど、たとえ自殺行為だとしても、そこをめざす姿勢が凄く格好イイ。すべての夢を追う者へ、という意味で名付けました」(ひぃたん)。

「もっともっと、ですね。試行錯誤してるじれったさはあるんですけど。イケますよ。まだ完成し切っていないので」(もとき)。

「いまのこの年代のうちにこういうスタートが切れた。自分のこれからが楽しみです」(ハルカ)。

 アグレッシヴなライヴ・パフォーマンスの評判も上々。大いなる可能性を秘めた4人の夢と衝動の疾走は、ここからさらに加速していく。

PROFILE

ジン
ひぃたん(ヴォーカル)、ハルカ(ギター)、哲之(ドラムス)、もとき(ベース)から成る4人組。2003年、それぞれ別々のバンドで活動していた同じ高校の仲間が集まって結成。地元である東京・府中のライヴハウス〈FLIGHT〉での初ライヴを皮切りに、本格的な活動をスタートする。2005年には自主制作盤『言錆の樹』を携えて、自力で全国50か所以上を回るツアーを敢行。2006年5月にデビュー・ミニ・アルバム『言錆の樹』をリリース。同年8月には“雷音”、11月には“マラカイト”とコンスタントにシングルのリリースを続けていく。今年に入って、1月のシングル“解読不能”発表を経て、2月28日にファースト・アルバム『レミングス』(Palm Beach)をリリースする予定。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年03月15日 20:00

更新: 2007年03月15日 20:33

ソース: 『bounce』 284号(2007/2/25)

文/宮本 英夫