MIMS
ラジオ~ダウンロードでのヒットを経て、ついには全米チャート1位を獲得した“This Is Why I'm Hot”。印象的なフックで耳を占拠してくるこの中毒的なヒットを放ったのが、まったくの無名新人だったミムズだ。
「まずフックが頭に浮かんで、〈こりゃイケる〉って思ったんだけど、その後に繋がるリリックが思いつかなくて、何となく口をついて出た言葉を並べただけ。この曲はオレだけじゃなくて仲間のブラックアウト・ムーヴメントとかいろいろな人たちの力を借りて完成させた曲なんだ。みんなの血と汗と涙の結晶さ。オレのことを信じてずっとサポートしてくれた人たちには心から感謝してるよ」。
その“This Is Why I'm Hot”を予備知識がないまま聴くとサウス産の曲かと思う人も多いだろうが、ミムズ自身は生まれも育ちもNYというのだからおもしろい。
「昔からヒップホップには〈フッドをレペゼンする〉というアティテュードがあるし、それはそれでいいと思うんだよ。だけど、オレの音楽に対する意識は、土地柄と関係なく〈イイ音楽〉をやることにあるんだ。だから、意識してNYのサウンドをやる必要もないと思ってるよ。オレはNYという土地じゃなくて、〈音楽〉そのものを第一に考えてるんだ。たぶんオレの音楽はアメリカそのものを代表する共通のサウンドを持ってると思う。この曲を思いついたのも、最初にフックを考えついたからで、特にサウスを意識したわけじゃないんだよ」。
ミムズが地域の括りに囚われることなく自由なアプローチを聴かせるのは、彼が81年生まれで、多感な時に90年代のヒップホップに幅広く触れてきたからかもしれない。最初に買ったレコードがスヌープ・ドッグの『Doggystyle』やドミノの“Sweet Potato Pie”だという彼は、それ以前からNWAやドクター・ドレーなどNY産以外の作品も好んで聴いていたという。今回のヒットは、ミムズのリスナー遍歴が時代のタイミングと絶妙に重なった結果なのかもしれない。とはいえ、いまでこそ脚光を浴びている彼だが、13歳で母親を亡くしてからひたすら音楽に打ち込み、2003年には“I Did You Wrong”というヒットを放ってメソッド・マンのツアーにも同行したもののレコード契約を果たすことができなかったという経験もしている。そんな苦労人の彼らしく、アルバム制作に関しても他者への温かい心遣いが感じられるのだ。
「新しいことをやりたかった。オレ自身が世間的にはまったくの新人だし、新しいプロデューサーばかり起用するのは危険で大胆だとも思ったよ。でも、あえて危険を冒してでもそうしかったんだ。新人でも凄い奴はいっぱいいるんだぜ。そういう連中にチャンスをあげたかったんだ」。
事実、このたび登場するアルバム『Music Is My Savior』には無名のトラックメイカーやゲスト・ラッパーが数多く起用されてはいるが、それらは決して作品の水準を下げるものではないし、むしろ多様なスタイルで“This Is Why I'm Hot”の印象を覆すフレッシュな内容に仕上がっている。表題に冠せられた〈Music Is My Savior〉という言葉に対するミムズの思いはイントロにも凝縮されているが、「人間は明日どうなるかわからないんだから、毎日を楽しく生きていきたい。常にスマイルを忘れずに一日一日を大切に生きていきたいんだ」と前向きに話してくれるその姿は、ヒット曲を作っても謙虚なままだ。
「次に何をやるかわからない、意外性に満ちてるのがオレのスタイルかな。今回はヒット・レコードを作ったけど、人から〈アイツはこういうスタイルしかできない〉って思われるのがいちばんイヤなんだ。常に違うもの、新しいものを求めていきたい」。
そう語る彼の視線の先にどんなヴィジョンがあるのか、いまから楽しみである。
PROFILE
ミムズ
本名ショーン・ミムズ。81年、NYはマンハッタン生まれ。母親に機材を与えられたことをきっかけにトラック制作に興味を持ち、13歳で母親を亡くした後にMCを志すようになる。カレッジ中退後の2001年に制作した“Love 'Em All”がカナダでヒットを記録。2003年には自主制作の“I Did You Wrong”がアンダーグラウンド・レヴェルで話題となる。2006年にキャピトルと契約して、メジャー・デビュー・シングル“This Is Why I'm Hot”をリリース。ダウンロードとエアプレイを中心に2007年初頭よりロング・ヒットを記録していた同曲が、3月に入って全米チャートでNo.1を獲得。期待を集めるなか、ファースト・アルバム『Music Is My Savior』(Capitol/東芝EMI)を4月4日にリリースする。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2007年04月05日 17:00
更新: 2007年04月05日 18:10
ソース: 『bounce』 285号(2007/3/25)
文/高橋 荒太郎