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インタビュー

木下美紗都

最小限の音色と透んだ歌声が織り成す、静謐で夢見心地なファースト・アルバムが届きました


 気がつけばラジオをつけっぱなしにして眠ってしまい、ラジオから流れるメロディーが夢に混ざる――東京生まれのシンガー・ソングライター、木下美紗都の歌は、そんなふうに聴き手の意識の内側にスルリと滑り込んでくるかのようだ。インスト・グループのサンガツに触発され、彼らの所属するレーベルにデモ・テープを送ったのが彼女の物語の始まり。そのテープは坂本龍一のラジオ番組にも送られて、高く評価されることになる。

「個人で曲作りをしていくうちに、大学の時に友達が作っていた映画の音楽を頼まれたりもしていたんです。でも、やっぱり歌を作りたい。〈歌いたい〉じゃなくて〈作りたい〉って思ったんです。なぜか、何の疑いもなく」。

 最初の頃はシンセとピアノしか持っていなかった彼女は、ブライアン・イーノなんかを聴きながら、アンビエントなテイストのトラックを作りはじめる。そして、ギターを手に入れたことが、歌うことへのひとつのきっかけになった。

「ギターって、ホントに歌との相性が良いと思う。歌が乗せやすいというか。それにピアノより、ギターのほうが声を出そうという気持ちになるんです」。

 そして「〈10曲作って、アルバムにしよう〉と勝手に決めて」作り上げたのがファースト・アルバム『海 東京 さよなら』だった。

「最初の頃は無駄にトラックを重ねて、息苦しいくらいだったんです。でも“手と手”を作った時に〈とりあえず普通にシンプルな歌を作ればいいんだ〉って気になれた。それで楽になりましたね」。

 彼女の楽曲は、そのメロディーと同じくらいトラックも魅力的だ。どちらもシンプルで、イメージの断片を繋ぐようにして、歌の風景を生み出していく。

「歌をイメージで捉えちゃうところがあるんです。ギターを弾いてても、ピアノでも、〈このフレーズは雨〉だとか、〈このトラックは雲〉だとか。詞の世界とは違うんですけど、感覚として」。

 去年、初めて人前で歌を披露したとのことだが、「日頃出せないような声が出てビックリした」らしい。そこから先に広がる彼女の新しい歌の世界が、いまから楽しみだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年04月12日 17:00

更新: 2007年04月12日 17:08

ソース: 『bounce』 285号(2007/3/25)

文/村尾 泰郎