インタビュー

THE HORRORS


  あんた、その前髪ざくっと切りなさい! ロックンローラーがメイクなんかするもんじゃありません! ていうか、カッコイイと思ってるのかもしれなけど、そのルックスのせいでゴス・バンドじゃないかって勘違いされるから!――ホラーズを見ていると、まずは身なりを注意したくなる。いや本当に、このメイクに誤解を抱いている人も多いのではないだろうか。UK出身の彼らが、ブルースもロカビリーもサイコビリーもパンクもガレージも呑み込んで、いわく説明しがたい個性と興奮を生み出していることが、その外見のせいで伝わりにくいったらない。

「いや、僕らは別にメイクなんかしてないよ。ただ、黒いアイラインのタトゥーを入れてるだけさ」(ファリス・ロッター:以下同)。

 はあ、そうですか。まずは大きなお世話と知りつつも〈そのメイク、誤解されますよ〉とアドヴァイス差し上げたところ、サラリと返ってきたのはそんな答え。

「だってさ、これまでも素晴らしいバンドっていうのは、どれもそれぞれ独自の強いイメージを持ってきただろ? それはパフォーマンスの一部であり、無視できる類のものじゃないんだよ」。

 そこまで言われちゃ、こちらはグウの音も出ない。ゆえに彼らを正しく紹介するためには、ひたすら声を大にするのみだ。このバンドはゴスではありません! かのアンディ・ウェザオールも惚れ込んでサポートし、鬼才のクリス・カニンガムが久しぶりにプロモ・クリップを手掛ける気になり、そしてこのファースト・アルバム『Strange House』のプロデューサーにはアラン・モルダーやジム・スクラヴノス(元クランプス)らが名を連ねていて――つまりは、音楽界のクロウトたちから熱烈に愛されている5人組なのだ、と。こんなヘンテコないでたちにもかかわらず。

 それにしても、サイケデリック万華鏡の如き本作は、まさにホラーズというフィルターをかけて世界を見たら、物事の輪郭や全体像がどういうふうに歪み、それがいかに快感へと連なるかをきちんと伝える作品になっている。先に挙げたようにさまざまな音楽性が交錯するが、しかし彼らには、ジャンルにこだわらず〈最高の音楽〉が持つべきものは何であるかが明確にわかっている。

「僕が思うに、最高の音楽というのは強くて明確なクリエイティヴ・ヴィジョンを持っている人々によって作られるものなんだ。つまり、具体的に何を作りたいのか、そしてそれをどのように作るかを正確に知っている人によってね。例えばスクエアプッシャーやシルヴァー・アップルズ、シド・バレット、ジョイ・ディヴィジョンなんかは、確実にそういう存在だね」。

 そういう意味でいえば、今作の白眉はインストの“Gil Sleeping”だろう。彼らが描こうとする世界がいかに繊細で耽美で野蛮さに満ちているかをきちんと伝えつつ、リスナーにクリエイティヴな刺激を与えて金縛りにするような一曲に仕上がっている。

「(“Gil Sleeping”の場合は)アッドNトゥXが大きな影響源になったね。そもそも、僕らは奇妙な曲構造やサウンドを使った実験が大好きなんだ。ジョシュア(・ヴォン・グリム)は自分でギター・ペダルを作っちゃうほどなんだよ」。

 とりあえず、流行とは関係ない〈クリエイティヴな作品〉が好物の人は、ぜひこのバンドをお試しあれ。こんなメイクだけど、こんな髪型だけど、野望は「世界中の鼓膜を破ること、だね」なんて言ってのけるダサさもあるけど、でも、サウンドの鋭さと音選びのセンスの良さは裏切りません、本当に。

PROFILE

ホラーズ
ファリス・ロッター(ヴォーカル)、ジョシュア・ヴォン・グリム(ギター)、スパイダー・ウェブ(キーボード)、トムシー・ファース(ベース)、コフィン・ジョー(ドラム)から成る5人組。2005年9月にロンドンで結成。2006年初頭にルーグと契約し、デビュー・シングル『Sheena Is A Parasite/Jack The Ripper』を限定リリース。クリス・カニンガムが製作した“Sheena Is A Parasite”のプロモ・クリップと共に大きな話題となる。2007年に入って〈NMEアワード〉のベスト・ドレッサー賞を獲得するなどさらなる注目を集めるなか、3月5日にUKでファースト・アルバム『Strange House』(Loog/Polydor/ユニバーサル)を発表。3月28日にその日本盤がリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年04月19日 00:00

更新: 2007年04月19日 17:22

ソース: 『bounce』 285号(2007/3/25)

文/妹沢 奈美