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インタビュー

BEN WESTBEECH


「料理が好きなんだ。得意なのは魚料理。魚がすごく好きだね」。

 ベン・ウェストビーチは4年前から活動の拠点としているブリストルという街の魅力に、「食べ物も美味しいんだ」と付け加えた。おそらくシェフの料理はレシピどおりではないだろう。作曲も演奏もプロデュースも、そして歌もこなすマルチ・プレイヤーのファースト・アルバム『Welcome To The Best Years Of Your Life』は、90年代にアシッド・ジャズ~トーキング・ラウドで一時代を築いたジャイルズ・ピーターソンの新レーベル=ブラウンズウッドからのリリースということでも話題だ。ベンの“So Good Today”は同レーベルの記念すべき001番だった。

「すべて(自動車の)サーブ900の内側で起こったのさ。“So Good Today”を友達にサーブのなかで聴かせたんだ。で、彼女がそれをまたサーブでジャイルズに聴かせたのが契約のきっかけだった。だから、名車サーブ900のなかで決まった契約だったんだよ(笑)」。

 幼い頃のベンは、クラシック(チェロやピアノ、声楽)を学ぶ傍ら、父親の影響でフランキー・ライモンやマーセルズといったロックンロール~R&Bが好きだったという。クラッシュなどのバンドに夢中になり、NWAなどのヒップホップ、LTJブケムなどのジャングルにもハマッていた。さらには「とにかくいろんな音楽が好きなんだ」と、ミニー・リパートンやアル・グリーン、ルーツらの名を挙げ、プロデューサーとしては「凄く影響を受けていると思う。特に彼とトライブ・コールド・クエストの作品とかね。そのあたりの人たちに強く影響されている」というJ・ディラに加えてネプチューンズ、ソングライターとしては「アイドルだった」というカート・コバーン(ニルヴァーナ)、ヴォーカリストとしてはディアンジェロから特に影響を受けたという。

 ブリストルに移る前から交流のあったクリプズを経由して、ロニ・サイズやダイら、フル・サイクル周辺で活動。ダイとクリプズは今回のアルバムにも参加している。

「街が小さいぶん、コミュニティーもこじんまりとしてまとまっている感じ。友達がたくさん集まっていっしょに音楽を作っている、という表現がいちばんいいんじゃないかな」。

 例えば、ドムとオシュンラデのリミックスも話題になった“So Good Today”は毎朝聴きたくなるような軽快で中毒性のあるフォーキー・チューン、ファビオやグルーヴライダーからピート・トンまでが支持するダイとの“Get Closer”はスムースなヴォーカルが理想的に絡むセクシーなドラムンベース――アルバムを聴くとありとあらゆるキーワードが思い浮かぶが、むやみなゴッタ煮感はない。「凄く自然体のアルバムなんだ。音楽に言われるがままに作った」との言葉どおり、ヴァーサタイルなアルバムはナチュラルに育まれたのだ。

「歌詞よりもメロディーのほうが大事だったけど、ソングライターとして成長すればするほど、歌詞も凄く重要になってきた」。

 そんな彼は、エレクトロニカやヒップホップを知る、同時代性のあるシンガー・ソングライターという説明もできるかもしれない。アルバムには喜びと悲しみの二面性があるという。

「自分に起きた出来事、自分がいた場所、過去の恋愛や人間関係、その時に周りで起こっていたこと……そういうことをアルバムでは歌っていて、これまでの僕の人生を反映している。その時々で自分がどんな気持ちだったかってね。そういう意味においては凄くパーソナルな作品だと思う」。

 最後に、ニューカマーらしく自分自身をプレゼンしてもらった。

「僕は音楽が大好きで、音楽こそが自分の愛するものだと思う。僕自身が幅の広い人間で、いろんな音楽を作るんだけど、どの曲もソウルフルなものばかりだ。だから、ソウルフルな音楽を期待してくれればいいと思うよ」。

PROFILE

ベン・ウェストビーチ
ブリストル在住のマルチ・ミュージシャン/ヴォーカリスト。父親の影響で幼い頃からロックに親しむが、やがてヒップホップやドラムンベースに興味を抱くようになり、12歳の時にターンテーブルを購入。一方ではクラシック音楽を学んでチェロやピアノの演奏を習得する。シャイFX&T・パワーとの仕事を通じてフル・サイクルに接近し、2006年にはダイ&クリプズ“Number One”に客演したほか、リーン名義でも活動。同年にブラウンズウッドと契約し、“So Good Today”“Get Closer”とシングルを連続リリースする。このたびファースト・アルバム『Welcome To The Best Years Of Your Life』(Brownswood/Traffic)を発表したばかり。4月11日にその日本盤がリリースされる予定。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年04月19日 00:00

更新: 2007年04月19日 17:21

ソース: 『bounce』 285号(2007/3/25)

文/栗原 聰