インタビュー

寺尾紗穂

さりげなくもドラマティックに日常を彩る、新進シンガー・ソングライターの新作に注目!!


 決して邪魔になるものではない。でも、感じた者の気分を存分に刺激して、心潤わせてくれるもの――例えば季節の変わり目に吹く風のような、そんな印象を与えてくれるのが寺尾紗穂の歌だ。澱みのない歌声、丁寧に紡がれる言葉、穏やかなメロディー。それらが三位一体となってドラマティックに放たれる歌は、これまで名だたる女性シンガー・ソングライターを引き合いに出されながら賞されてきた。例えば吉田美奈子、矢野顕子、大貫妙子……。

「特に年配の方からはそう言って誉めていただいてますね(笑)。でも、そういった凄い方の音楽は、大学に入るまでほとんど聴いたことがなかったんですよ」。

 幼少の頃にディズニーの音楽やクラシックに親しみ、中高時代にはミュージカル音楽を制作。いわゆるJ-PopというものはDREAMS COME TRUEなど一般的なヒット作品を好んで聴く程度だった彼女が、その身に染み付いた感覚を元に作り出す奇跡的なポップス。大学時代に結成したバンド、Thousands Birdies' Legsのヴォーカル/ソングライターとしても活動中の彼女だが、昨年春に発表した『愛し、日々』に続き、このたび2枚目のソロ・アルバム『御身 onmi』を届けてくれた。

「ライヴでは〈毎回新曲を歌う〉っていうノルマを課してきたんですけど、そういった形でここ1年ぐらいかけて書いてきたものがほとんど。レコーディングでは、私がお願いしたいなと思ったゲスト・ミュージシャン(SAKEROCKの星野源、ハンバートハンバートの佐藤良成ほか)と、どんな化学反応が起こせるかな?って思いながら作っていったんですけど、予想以上に良いものが出来ました」。

 良質な文芸作品にも似て、触れるたびに新しい発見や感動との出会いがあるのも、本作の魅力だ。

「この曲が良かった、っていう意見も結構分かれますしね。良い意味で〈押し曲〉がないぶん、ちょっと地味なアルバムと思われるかもしれないですけど」。

 このアルバムを聴いて本当に地味だと思ったら、それは3日で飽きるような刺激過多な音楽に、日頃耳を侵されている証拠である。
▼寺尾紗穂の関連作を紹介。

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掲載: 2007年04月26日 20:00

ソース: 『bounce』 286号(2007/4/25)

文/久保田 泰平