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インタビュー

EARL GREYHOUND


  長身長髪のギタリスト、アフロで褐色の女性ベーシスト、肩幅の広い黒人ドラマー。この3人が、小さかったり、細かったり、弱かったり、ヌルかったりする音なんて絶対に出すわけがない。ルックスからしてそんなオーラがドクドクと滲み出ている。超絶的爆音と柔軟かつ豪胆なグルーヴ、メロディアスでブルージーなフレーズ――重厚なロックンロールをNYから発信し、世界中の好事家たちから〈レッド・ツェッペリンの再来〉と謳われる猛犬トリオ、アール・グレイハウンドのファースト・アルバム『Soft Targets』がこのたび日本盤化された。ストリートで歌っていたカマーラ・トーマスがマット・ホワイトと出会い、ユニットを結成。その後、ビッグ・リック・シェリダンの加入によって、ツェッペリンやT・レックスからの影響をモロ出しした、高速道路を爆走する重戦車連隊のようなサウンドに行き着いたという。

「ソウルとエネルギーのすべてを、私たちは余すことなく楽曲に注ぎ込むのよ。メンバー3人が手を取り合い、自分自身や音をできる限り拡張してきた。高次元のエネルギーが音に収斂されることをめざしてね」(カマーラ:以下同)。

 トリオで圧倒的な爆音を生むには、お互いのバランス感覚以上に、己の内にある限りない音の拡大/拡張が重要になってくる。それぞれが無心に演奏することで、緊張感とバランスが必然的に生まれるのだ、と。まるで求道者のような彼らであるが、その思想と聴覚はアートの先鋭都市であるNYで鍛えられた、数え切れないほどのライヴ経験からくるものだった。

「私たちにとって、ライヴがすべてと言っても過言じゃない。互いにコミュニケーションを図り、エネルギーを最大限に流し込むことで、私たちの音楽を聴いてくれる人々と喜びや愛を共有するの。NYはさまざまなアーティストがいる場所。それも重要だったわ。衝撃的なものが溢れる街だから、芸術的な焦点を定めるには凄くタフな場所よ。毎日生活しているだけでもいろいろなことで気が散るし、いろいろな影響も受けやすいからね。でも、そういう戦いは私たちにとって良いことだった。自分が求めるものに焦点を定め、自分たち独自のヴィジョンやサウンドに忠実であろうとする。良いトレーニングになったわ」。

 まるで禅僧のような尋常ならざる精神力である。雑多であるが、ゆえに研ぎ澄まされるなんて、生半可なことではない。なぜ彼らは、ここまでロックンロールに絶大な信頼を寄せられるのか?

「それはとても自由なサウンドだからよ! 周りの環境がどれだけ暗くなろうとも、無関心になったり、物事に麻痺したり、皮肉っぽくなっても、人間は常に自由を求めてどうにか喜びに手を伸ばそうとするものよね。そしてロックンロールはそれを後押ししてくれる。素晴らしいわ!」。

 では、彼らも含め、アンサーやウルフマザーのように閉塞感や難解さを一切排除した70年代的ハード・ロックの復権について、当事者はどのような認識を持っているのだろう。

「70年代って、音楽が信じられないほどのエネルギーを持っていた時代だと思うの。ロックだけじゃなくてすべての音楽が、野心や熟練、才能を備えていた時代だった。彼らはハングリーで、アートを次のレヴェルへ持っていくことに無心だったと思う。その部分こそが私たちの求めるものであり、真の70年代リヴァイヴァルだわ」。

 リヴァイヴァルは〈焼き直し〉ではなく〈スピリットの継承〉だ、と。なんて信頼できるバンドなんだろう。彼らのワイルドな音楽性に含まれた痺れるようなノイズや、トロけるような甘いメロディーも温故知新の賜物だ。思い知ったか、ロックンロール。とにかく早く来日して、俺たちに最高のライヴを観せてくれ!

PROFILE

アール・グレイハウンド
NYを拠点に活動する3人組のロック・バンド。2002年春にカマーラ・トーマス(ヴォーカル/ベース)がマット・ホワイト(ヴォーカル/ギター)を誘い、デュオとして活動を開始。そこにビッグ・リック・シェリダン(ドラムス)が加入したことで現在の編成となる。地元を中心に精力的なライヴ活動を続け、2004年初頭にインディー・レーベルのサムと契約。同年10月にファースト・ミニ・アルバム『Earl Greyhound』をリリース。2006年にピンク・フロイドとも縁の深いスタジオ、ウェストビーチ・レコーダーでレコーディングを行い、8月にファースト・フル・アルバム『Soft Targets』(Some/VAA/Village Again)を発表。このたびその日本盤がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年05月02日 20:00

ソース: 『bounce』 286号(2007/4/25)

文/冨田 明宏