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インタビュー

FIELDS


 陽射しを浴びて、さわさわと風がそよぐ野原。ところが太陽が雲間に隠れたかと思うと、あたりは突然しんと静まり返り、生温かい風が吹きはじめる――そんなふうに、フィールズのサウンドには異世界の扉が開くような瞬間がある。UKロック好きから注目を集める彼らのファースト・アルバム『Everything Last Winter』が、ついにリリースされた。アイルランドの古い地下貯蔵庫を改造したスタジオでのレコーディングでは、不思議なことも起こったとか。

「スタジオはジメジメした薄気味悪いところで、機材が理由もなく止まったり、メンバーもそれぞれ幽霊を見たり感じたりしたことが何回かあったんだ。素晴らしいアルバムを作ろうとしている一方で、その場に何らかの闇の力が働いているかもしれないと感じるのは、とても落ち着かない気分だったよ(笑)」(ニック・ペイル:以下同)。

 なんとか闇の力に打ち勝って(?)完成された本作で、彼らは物語性に満ちたサウンドをたっぷりと聴かせてくれる。

「今回は、バンドが持っているライヴ感をレコーディングで捉えたいと思ったんだ。これまでのシングル曲はもっと(録音した素材を)切り貼りした感じだったからね。アルバムではよりハードで、音の厚みがあって、ギターが前面に出たものをやりたかったんだよ。僕たちはフォーク・バンドと思われがちだけど、スマッシング・パンプキンズやソニック・ユースといったバンドを聴いて育った。そのことが、アルバムを作るうえでの影響になったと思うね」。

 確かに本作では、サウンドの多彩さとグルーヴの力強さにますます磨きが掛かっている。フォーキーなギターの調べが、いつの間にかフィードバック・ノイズの轟音へと変身。フリー・フォーク的なメランコリアとスペイシーなギター・ノイズが融合したサウンドは、ペンタングルとソニック・ユースを同時に愛する彼らならではの個性だ。アコースティックとエレクトリック、ハーモニーとノイズ、その両極から生まれるダイナミズムは、フィールズ・サウンドの核といえるだろう。

「確かに、バンドにとって音のダイナミックさはとても重要だよ。もちろんそれは、ただ音を大きくすればいいということじゃない。曲の多くはアコースティックでもエレクトリックでも同じように良く聴こえたから、両方の要素を採り入れたんだ。僕たちは注意力が長く続くほうじゃないし、だから音楽的にも何かとゴチャ混ぜにしようとするんだろうね」。

 そうしたスタイルを代表するのが、アルバムのオープニング・ナンバー“Songs For The Fields”だ。曲名からして、いかにもバンド・アンセム的。

「この曲は、バンドで演奏するのが本当に楽しい。光と影が程良くあるし、この曲をみんなで歌う時にハーモニーの力を感じるのが素晴らしいね。上手くいったときはまるで魔法のようなんだ。それから曲の後半は飛び跳ねたり、大きな音を出せるようになっている。それも僕たちが大好きなことのひとつさ」。

 とにかく本作からは、いままで以上にバンドとしての一体感が伝わってくる。まさに〈フィールズ誕生!〉って感じで、これ以上ないファースト・アルバムだ。じゃあ、バンドにとって〈フィールズ(野原)〉ってどんな場所なんだろうと?と最後に訊ねてみたら、こんな答えが返ってきた。

「高いモミの木がそこらじゅうに、それこそ光を遮るほど生い茂っていて、たくさんの蔦も絡まっている。地面には熊が幸せそうに暮らしていて、木の枝にはコウモリが住んでいるんだ! とても奇妙な場所だろうね」。

 きっと『Everything Last Winter』は、その奇妙な野原に至る一枚の地図なのだ。

PROFILE

フィールズ
ニック・ペイル(ヴォーカル/ギター)、ソルン・アントニア(ヴォーカル/キーボード)、ジェイミー・プットナム(ギター)、マッティー・ダーハム(ベース)、ヘンリー・スペンナー(ドラムス)から成る5人組。2005年秋にロンドンで結成。自主レーベルのブラック・ラボを立ち上げて、2006年3月にファースト・シングル“Songs For The Fields”を発表。その直後にUK~USツアーを敢行し、同年7月にEP『8 From The Village』でメジャー・デビューを果たす。同時期に〈フジロック〉で初来日。2007年に入ってシングル“Charming The Flames”がヒット。このたびファースト・アルバム『Everything Last Winter』(Atlantic UK/ワーナー)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年05月31日 14:00

更新: 2007年05月31日 17:43

ソース: 『bounce』 287号(2007/5/25)

文/村尾 泰郎