インタビュー

CHEHON


 レゲエがすっかり市民権を得たなか、その気になれば誰もが簡単にマイクを握れる昨今。ともすれば、芯のないDJの数も急増するわけで――って、シーンにケンカを売っているわけではないのだが――だからこそこの男が放つ強烈な現場臭に、聴き手は心を鷲掴みされてしまう。「焼肉とキムチとバッタもんがいっぱい売ってる、ちょっと治安の悪い場所」と語る大阪は鶴橋で生まれ育ったCHEHONは、パンクやミクスチャーを聴きながらバンドの真似事をして過ごした中学時代を経て、ヒップホップのパーティーに遊びに行くようになり、その延長でレゲエのダンスにも足を踏み入れた。そんなありふれた道程を通過して、彼はごく自然にDJを志すこととなる。

「連れがたまたまDJをやってて、そんで〈なんか俺もやりたいな〉って。で、ラバダブをやってる場所を探しては、そこで歌ってました。最初の頃は人の顔も見れんと、マイクばっか見てましたね。でも、やっぱり慣れてくるじゃないですか?」。

 場数を踏むことで自信をつけていった彼は、徐々に個性を確立。「単にガナれなかったから」とか「別に声に特徴があるわけでもないし」と本人は語るが、その〈普通の兄ちゃん風〉の声で韻を踏み倒すスタイルと、「オケを聴きながら鼻歌でメロディーを考えて、曲を書いていく」というのも大いに納得できるメロディアスなフロウを武器に、地元で評判を集めていく。そして、ソジャー“Pon De Corner”と同リディムの〈Guilty〉に乗ったラヴソング“みどり”で一般女子からの人気も獲得。しかしラヴソングなのは表向きだけで、裏に潜んだメタファーに全国のラガマフィンが勢いよくガンフィンガーを突き上げたのだ。もちろん彼の素晴らしい才能が見過ごされるわけもなく、そこからアルバム制作の話はトントン拍子で進むことに。

「2年後にはどこも出してくれへんかもしれない。それやったら、〈せっかくのチャンスやし、出せるもんは出しとこう〉って。だって大阪には作品を出したくても出せない、才能溢れる奴らがメッチャいてますからね」。

 果たして、タイトルも明快な『「チェホンのファーストアルバム。」という名のアルバム』が完成した。テーマは「リアルタイムCHEHON」。太華(MSC)ほかゲストは少なめ、JUNIOR(RED SPIDER)やFLY-Tらトラックメイカーも馴染みの人ばかり、そしてセルフ・プロデュースということもあって、主役の巧みな話芸が思う存分楽しめる作りとなっている。全体的には現場仕様のアップが多く、勘違いDJをメッタ斬りする“Shut up”などいつも以上に舌好調だ。一方で、バンドを従えた“痛快エブリDAY”ではノリだけではない、マジメな面も垣間見せる。

「(ローカルTV番組から拝借した)タイトルはふざけてますけどね。なんつーか、DJで食っていくのってかなりしんどいんですよ。いまもバイトしながらやってる子はたくさんいますし。だから自分のがんばる姿を表現したいというか。NG HEADさん(CHEHONが憧れる大阪のDJ)とか見てると、夢を貰えるじゃないですか? 自分も次の世代に夢を与えたいと思うし。そんな男の熱い様を書きました」。

 さらに、先述の“みどり”もアコースティック編成で再録されており、「せーので一発録りしたんです。最後のほうとか一文字言えてなかったりしてますもん(笑)」と味のあるヴァージョンに仕上がっているほか、ジャマイカで新たにミックスが施された既発曲も、ヴォーカル・パートを浮き立たせることで息遣いまで感じられる生々しい作品に生まれ変わっている。

「今後のいちばんの目標は、サウンドシステムを作ること。それと長期間を使ってジャマイカで生活したい。彼らの言うことを完璧に理解したいんですよ」。

 レゲエ道にドップリ浸かってしまった一人の若者が、いま『「チェホンのファーストアルバム」という名のアルバム。』をとおして私たちにその魅力を全身で伝えようとしている。

PROFILE

CHEHON
85年生まれ、大阪は鶴橋出身のレゲエDJ。2002年頃からマイクを握り始め、2005年9月に大阪のJOULEで開催されたDJトーナメントで準優勝を果たす。同年に制作された“みどり”がDr. Productionの耳に留まり、2006年7月にファースト・ミニ・アルバム『みどり』をリリース。DRAGON FARMやRED SPIDERのミックスCDに楽曲が起用されるなどして、徐々に知名度を上げていく。その後も、HIBIKILLAやCHEE、DINOSAUR、BESらとのコンビ・チューンほか、多くの7インチ・シングルを発表。このたびファースト・フル・アルバム『「チェホンのファーストアルバム」という名のアルバム。』(CBB/ミュージックマイン)をリリースしたばかり。

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掲載: 2007年05月31日 14:00

更新: 2007年05月31日 17:42

ソース: 『bounce』 287号(2007/5/25)

文/山西 絵美