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インタビュー

瑠美


「ラップのアルバムって、ラップ好きとか一部の人しか聴かないってとこあるじゃないですか。そこには留まりたくないんです。ラップ好きの人に韻のおもしろさとかを伝えたいんじゃなくて、言葉の意味を人に伝えたい。クラブ・ミュージックどうこうというよりは、普通に働いている人だったりギャルだったり、フツーの人にも聴いてほしい。そういう人がどう感じるかを知りたい」。

 ファースト・アルバムの『HELL ME TIGHT』から3年ぶりとなる新作『Hell Me WHY??』についてRUMIはこう語る。彼女自身も「溜まりに溜まっていたフラストレーションを吐き出したかった」と振り返るとおり、前作はリリックもトラックも決して聴きやすいと言える内容ではなかったと思う。しかし、そのアルバムは彼女のラッパーとしてのポテンシャルの高さを、アンダーグラウンドなヒップホップ・シーンの枠を越えてプロパーのヒップホップ・リスナー以外に広く知れ渡らせることになった。

「ダブ・ステップが全般的に好きってわけではないけど、スクリームとかコード9とかはかっこいいなって思うし、ヒップホップはもちろん、歌謡曲やノイジーなハードコア、アイドルとかもけっこう好きなんです(笑)。飯島愛とか。そういうのをちょっとずつ出していければいいなぁと思う」。

 この雑多な音楽性は多彩なトラックメイカー陣を迎えた『Hell Me WHY??』で十二分に発揮されている。藤圭子~梶芽衣子~三上寛といった昭和の歌い手によって歌い継がれてきた歌謡曲“夢は夜ひらく”にインスパイアされた“R.U.M.Iの夢は夜ひらく”は、GOTH-TRADのトラックにRUMIのドギツくもロマンティックなリリックが見事にハマッた素晴らしい曲だ。UKのクラブ・シーンを中心に盛り上がりを見せるグライム/ダブ・ステップの影響を感じさせる同曲や、新宿のヒップホップ・クルーであるMSCのPRIMALと共演した“Fever!”、長年のライヴ・パートナーであるSKEやSKYFISHがそれぞれトラックを作った“CAT Fight!!”“heso-CHA”なんかは、家でも聴けるしクラブでは踊れるといった作りになっている本作の、キーになる楽曲とも言えるだろう。さらにTHA BLUE HERBのO.N.Oや、KEMUI、Mic Jack ProductionのDJ DOGGらもトラックを提供している。

 そして、ヒップホップでラップすることに目覚めて、70年代の歌謡曲の詞にもインスパイアを受けたと語る彼女のリリックのリアリズムは、日本語ラップという表現の新たなプロトタイプを生み出したとも言える。コアなリスナーに向けたヒップホップ的なコードではなく、ひとりの女としての、そしてひとりのラッパーとしての日常生活のトピックが彼女のリリックのオリジナリティーなのだ。

「〈女だけど負けないぞ〉みたいな意識は全然ないんだけど、年齢的にも老いと直面しはじめて(笑)、女の人ってだいたい私ぐらいの歳から寂しさで狂いはじめたりするから、〈寂しさと女の人と老い〉というのはテーマかもしれない。なんでそうなる女の人が多いんだろう?という疑問がすごいある」。

 RUMI本人が語っているように、このアルバムがふだんヒップホップを聴かないリスナーにこそ届くことを僕も望んでいる。クラブに出かけて踊り狂うあなたも、働くことに疲れて週末を寝て過ごすあなたも、ブランド物を買いすぎて借金に追われるあなたも、とにかくこの『Hell Me WHY??』を一度聴いてみよう。

PROFILE

RUMI
78年生まれ、東京~川崎育ちのMC。高校生の頃にYOSHI(後の般若)と共に般若なるユニットを結成し、DJ BAKUをライヴDJに従えて活動開始するも、やがてソロに転向。2001年にasaと12インチ・シングル“蛹-サナギ”を発表し、2003年のコンピ『Homebrewers 2』には“巨大なわな”を提供している。翌年に自身のレーベル=Sanagiを立ち上げ、ファースト・アルバム『HELL ME TIGHT』をリリース。DJ BAKU“畜殺”や漢“破壊と再生”に客演し、主催イヴェント〈LOVE CALL〉などを通じて存在感を増していく。コンピ『Libra Record -天秤録音-』やasa、CANDLEらの作品への参加を経て、このたびセカンド・アルバム『Hell Me WHY??』(POPGROUP)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年06月07日 22:00

ソース: 『bounce』 287号(2007/5/25)

文/二木 信