SUMMER OF SPACE
ヴォーカリストのヘイリー・ギビーを中心に、〈乙女ハウス〉の象徴となったカスケイドことライアン・ラドンとフィン・ジャンソンがプロデュースで参加したプロジェクト、サマー・オブ・スペース。カスケイドの手掛けたアーティストといえば“Illuminate”のヒットを生んだラトリスが記憶に新しく、ハウシーな音が想像されるかもしれないが、このサマー・オブ・スペースが披露するのはいわゆる〈ハウス〉だけではなく、チルアウト~ダウンビート系のイビザ風癒しサウンド。何よりも特徴的なのは、ライアンが「ヘイリーの声を聴いた瞬間、彼女の声の虜になってしまった」と語るほどの魅力的な歌声である。つまりサマー・オブ・スペース=ヘイリー・ギビーなのだ。
ユタ州オレムを拠点に活動しているヘイリー。父親はミュージシャンで、子供の頃からそれを見て育った彼女がこの道を選んだのは必然だったようだ。自身でもキーボードを演奏するそうで、すでに高校時代から作曲を始めていたのだとか。デモ・テープをきっかけにヘイリーとフィンが出会い、フィンが音楽制作の相棒であるライアンにも紹介したことから、ヘイリーいわく「音にポジティヴ・ヴァイブを持ったプロジェクト」だというこのサマー・オブ・スペースはスタートしている。シンガー・ソングライターでもある彼女のお気に入りのアーティストは、サラ・マクラクラン、ジュエル、トーリ・エイモス、スティングなど。実際、彼女が現在やっているようなダンス・ミュージックはあまり聴いてこなかったそうだが、いまではこのサウンドがしっくりきているようだ。
「カスケイドの曲で歌ってほしいと頼まれて、それからはすぐ好きになった。音楽の方向性を変えたいとは思っていないわ。アルバムにとっても満足しているし、このまま続けていきたいの」。
さて、〈満足している〉というそのファースト・アルバム『Summer Of Space』。コンセプトはノー・コンセプトというほど当初は何も決まっておらず、非常にオープンな状態から始めたようだ。サウンド面については、「自分の音楽をカテゴライズするのは好きじゃないのよ」と前置きしつつも、「たくさんダウンテンポの曲が入ってるわ。チルアウトと、ちょうどいいテンポのハウス・ソングとでも言えるかしら」と説明してくれた。一方で彼女はソングライティングでも参加している。
「歌詞は自分の経験から出てきているわ。時には具体的だったりもするし、感じている気持ちをそのまま表現しているのよ。お気に入りの曲は“Drowning”。私にとって深い意味のある曲よ」。
その“Drowning”は自立をめざす女性の複雑な心境を歌った、しっとりしたバラード曲となっている。そして、忘れてはならないのは、カスケイドも惚れ込んだ彼女の声だ。特にその良さが引き出されるのは、やはりダウンビート系の曲だろう。ゆったりしたトラックを彼女の繊細で柔らかな声がふんわりと包んでいる。柔らかながらも彼女の歌声のインパクトは強い。こういった、いわゆる〈チル系〉と呼ばれる音楽はヨーロッパでのウケは良いものの、日本はもちろんUSでもかなりマイノリティーにあたる。そのような、ある意味〈コア〉な音楽をやっていくことについて訊いてみると、「USでもディープ・ハウスのコミュニティーには受け入れられている音だと思う」とターゲットも見据え、迷いはないようだ。
今後のサマー・オブ・スペースはライヴも視野に入れて活動していく予定だという。まだ日本には来たことがないというヘイリーだが、初来日も近いかもしれない。猛暑が予想される今年の夏、『Summer Of Space』でも聴いて体感温度を1、2度下げてみてはいかが?
PROFILE
サマー・オブ・スペース
ユタ州オレム出身のヴォーカリスト、ヘイリー・ギビーを中心としたプロジェクト。10歳の頃にシンガーとして地元中心の活動を始めた彼女は、メジャー・レーベルからのオファーなどを断りながら自身の音楽性を追求していく。2001年、彼女とプロデューサーのフィン・ジャンソンが出会って楽曲制作を開始。そこにライアン・ラドンが合流する形で2005年にプロジェクトが正式にスタート。同年のデビュー・シングル“With You”や“A New Start”といったトラックがチルアウト~ハウスDJの間で話題となる。2006年にはダウンロードのみで『Winter EP』を発表。その後もレコーディングを続け、このたびファースト・アルバム『Summer Of Space』(Quiet City/KSR)をリリースしたばかり。