インタビュー

MANAFEST


 2006年9月の輸入盤リリースから右肩上がりで人気を高めているマナフェストのニュー・アルバム『Glory』が、ついに日本盤化される。このマナフェストとはカナダ出身のクリス・グリーンウッドによるソロ・プロジェクトで、正式なアルバムとしては本作が2枚目。ラッパーながらロック・サウンドを大胆に採り入れるなど、楽曲ごとにその印象が大きく異なる新感覚のミクスチャー・スタイルが特徴的だ。また、(アルバム収録曲の“Bounce”や“Dream”でもその事実が赤裸々に語られているが)もともとは本格的にプロ・スケーターをめざしていたという異色の経歴を持つなど、そのスタンスも独特である。

「当時は寝ても覚めてもスケートボードのことばかり考えてたよ。だから、大怪我した時はすべてを失った気持ちだったね。突然何もやることがなくなってしまったんだ。でも、それが新たな道の始まりだったのさ。小さい頃からよくヒップホップを聴いてたし、友達にもラッパーがたくさんいたから、彼らに教わりながら自分でリリックを書くようになったんだ」。

 生き甲斐を失い、自分の存在意義すら見失っていたクリス。自信を取り戻すために一度はギャングスタ・ラップを試みるも、「本来の自分じゃなかった。自分が白人で、かつ郊外出身の元スケーターだっていう事実を受け入れたことで、不安や恐れがなくなったんだ」と語っているとおり、徐々に真実と向き合う現在のスタイルへと変化していく。そんな経緯からか、クリスチャンでもある彼は、自分が困難をどう乗り越えたかを嘘偽りなく伝えることで多くの人にポジティヴな影響を与えられるようにと、〈証明する〉という意味を持つ〈Manifest〉をモジって自身のステージ・ネームにした。

 また、彼の活動形態も興味深い。ドラマーを従えてストリートからクラブ、それに教会やロック・コンサートに至るまで、さまざまな場所で精力的なパフォーマンスを行っているのだ。

「自主制作のEPに1曲だけロックのトラックを入れたんだけど、みんな最初はビックリしたみたい。でも反応は凄くよかったよ。ライヴでプレイすると、まるで会場をロックアウトするような感じで盛り上がるんだ。スケーターの頃からロックやパンクも聴いてたし、自分が好きな音楽をジャンルや型に囚われず、自由に披露するのが俺のスタイルさ」。

 確かに、今回の『Glory』でもリード・トラック“Don't Turn Away”を筆頭としたミクスチャー・スタイルのロックな楽曲が際立っている。なかでも同郷のロック・バンド、サウザンド・フット・クラッチのトレヴァー・マクネヴァン(ヴォーカル)と共作した“Impossible”は、アルバムきってのキラー・チューンだ。

「お互いにロックとヒップホップを融合させた音楽に興味があったんだよ。彼の誘いで共作することになったんだけど、何と彼はレーベルまで紹介してくれたんだ」。

 ということで、現在彼が所属するのはパンク系レーベル、トゥース&ネイル傘下のベック。「将来的にはバンド形式で活動したい」と語る彼のヴィジョンに最適なレーベルだったのだろう。世界的にも知名度を高めつつある同レーベルのバックアップを得て、いまや各方面から注目を集める存在となった。

「もちろんヒップホップのトラックを作る時はできるだけそのマナーに忠実にいるよう心掛けてるけど、常に実験し、できるだけ幅広いスタイルを用いたヴァラエティー豊かな作品を作りたいんだ。どんな音楽をやるにしろ、基本はトラックの上にリリックを乗せるラップ・スタイルさ。ただ俺がやりたいのは、ラップとロックの融合なんだよ」と語るクリス。ロックかヒップホップかなんて堅苦しく考えずに、ある種これまでの常識を覆す斬新なスタイルが何とも新世代らしく、素直にカッコイイ。

PROFILE

マナフェスト
本名、クリス・グリーンウッド。カナダはトロント出身の27歳。少年時代からプロ・スケーターを夢見るも、98年に足に大怪我を負ったため断念。当時好きだったビースティ・ボーイズやリンキン・パークからの影響もあって自然と音楽の道を志すようになり、クラブや公園、スケートボードの大会などでパフォーマンスを行うようになる。2001年に自主制作でファーストEP『Misled Youth』を発表。2005年初頭にトゥース&ネイル傘下のベックと契約を結び、同年8月にファースト・アルバム『Epiphany』でデビュー。その後も地道なライヴ活動を展開し、知名度を上げていく。2006年9月にUSでセカンド・アルバム『Glory』(Bec/東芝EMI)を発表。7月4日にその日本盤がリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年07月19日 23:00

ソース: 『bounce』 288号(2007/6/25)

文/上谷 義秀