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インタビュー

THE ENEMY


 イングランドのほぼ中央に位置するコヴェントリー。かつて自動車産業で栄えたこの都市も、経済の停滞でいまは活気を失いつつある。そんな街の片隅で退屈な日常と決別した怒れる若者たちが、ロックンロールという名の旗を掲げて鮮烈なファースト・アルバム『We'll Live And Die In These Town』を完成させた。彼らの名はエナミー。現在NME誌などが〈オアシス以降最大のバンド〉と大プッシュしている3人組で、〈サマソニ〉での来日も決定している。加えてカサビアンからも評価を得て、直々にサポート・アクトに抜擢! そんな2007年のUK新人レースを爆走している彼らのバンド結成の経緯を、メンバーのリアム・ワッツ(以下同)が話してくれた。

「何もすることがなくて暇を持て余していたから、バンドを組んだんだ。トム(・クラーク)とアンディ(・ホプキンス)は頻繁にパブに通っては、1日に40ポンドとか50ポンドを酒代に使っていたよ。あまり大きな声で言えるような生き方じゃないだろう? そんな生活に飽き飽きして、何か違うことをしようって気になったんだ」。

 彼らが鳴らすロックンロールは、多くの若者が抱えている〈何も起こらない日常への怒り〉に満ちている。そして、この新たなワーキング・クラス・ヒーローが叫ぶ憤りに、いまUK全土が燃え盛っているのだ。バンドがクラッシュやジャム、オアシスなどとたびたび比較されるのは、音楽性もさることながらリアルなリリックが大きく影響しているのだろう。

「トムはジャムとクラッシュとセックス・ピストルズから多大な影響を受けているよ。トムはこれらのバンドから放出されるエネルギーが大好きなんだ。彼らのサウンドは生々しいんだけど、同時に完璧なところがスゴイよね!」。

 また、メンバー全員がオアシスの大ファンらしいが、そのオアシスをも凌駕する天才的なメロディーラインと荒々しくもクラシカルな疾走ギター・サウンドを、19歳にしてすでにモノにしている。そんなエナミーの才能と情熱に惚れ込んで再始動を決めたのが、かつてマッドネスやエルヴィス・コステロも在籍した老舗パンク・レーベルのスティッフ。なんとバンドは結成からわずか2か月でレコード契約に漕ぎ着けたそうだ。

「親父がスティッフの盤を多数持っていてさ。そして、俺たちのマネージャーがスティッフのコンタクト先を知っていたんだ。で、1,000枚でもいいから出したいってアプローチしたんだけど、昔のカタログしか扱っていないからって理由で断られたんだよね。だけどその後、俺たちの曲をじっくりと聴いてくれたみたいで、レーベルを再始動するって言ってくれたんだ。スティッフが20年ぶりに新作をリリースすることになった時は最高な気分だったね!」。 

 このバンドが他の新人と一線を画しているのは音楽性の幅広さと豊かさであり、そこには地元の英雄からの影響も大きいようだ。

「スペシャルズと同郷ということで、彼らには刺激されてるね。地元の誰もがスペシャルズを愛しているし、影響を受けないほうが難しいと思う。俺の親父はレゲエ・バンドでやっぱりドラムを叩いているんだけど、その影響もあってレゲエには常に刺激を受けてきたよ」。

 破竹の勢いでここまで突っ走ってきた彼らだが、最後にリアムはバンドとしての進むべき道を語ってくれた。

「スタートさせたからには世界一のバンドにならなくちゃ。ちょっと大袈裟かもしれないけどね。でも自分自身を信じられないなら、他人を夢中にさせられるはずがないと思っているから」。

 ひとつ確実なのは、この『We'll Live And Die In These Town』を聴いて世界中の人々が彼らに夢中になるだろうということ。さあ、リアルな衝動を体感せよ!

PROFILE

THE ENEMY
トム・クラーク(ヴォーカル/ギター)、アンディ・ホプキンス(ベース)、リアム・ワッツ(ドラムス)から成る平均年齢19歳の3人組。2006年2月にUKはコヴェントリーで結成。同年4月にスティッフと契約を結び、10月に7インチ・シングル“40 Days, 40 Nights”でデビュー。精力的なライヴ活動を続けながら、今年2月にセカンド・シングル“It's Not OK”、4月にサード・シングル“Away From Here”とリリースを重ねていく。なかでも後者が全英チャート8位をマークするなど、世界中で話題となる。6月に発表された先行シングル“Had Enough”を経て、このたびファースト・アルバム『We'll Live And Die In These Towns』(Stiff/Warner UK./ワーナー)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年07月26日 19:00

ソース: 『bounce』 289号(2007/7/25)

文/白神 篤史