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インタビュー

HUEY


  〈また新しいダンス・ヒットが~〉という枕でもいいし、あるいは〈またしてもセントルイスから新たな才能が~〉という書き出しでもOKだろう。どっちでもいいけど、セクシャルなダンスの流行も相まって今年の上半期を席巻したフロア・ヒット“Pop, Lock & Drop It”の担い手、ヒューイのお目見えだ。

 「ヒットは凄く嬉しいし、ありがたいと思ってる。ブレイクするまで時間がかかったけど、努力が報われたって感じかな。地元の人たちがサポートし続けてくれたおかげで、全国的なヒットに結びついたんだ」。

 彼自身がそう語るように、同曲は2年半ほど前に作られ、セントルイスで奮闘していた彼をローカル・スターに押し上げる起爆剤となったもののようだ。が、そんな下積みを経験しても、まだ19歳。同郷の先達であるネリーについて「同じ世代じゃねえよ」と威勢良く語るほど若いのである。

 「最初はビートを作ってたんだけど、作ってるうちにそれに乗せてラップしたくなったんだ。実際にラッパーになろうって思ったのは14歳の頃で、憧れてたラッパーはいっぱいいるよ。2パックやビギーはマストだし、T.I.も大好きだ。あとはエミネムやジュエルズ・サンタナってとこかな。でも、曲さえホットなら何でも聴いてたよ」。

 そうやって活動していたヒューイをフックアップしたのは、ジャイヴのヴァイス・プレジデントであるミッキー“メンフィッツ”ライト。TLCやヤングブラッズ、T・ペインのA&Rを担当し、現在はヒッツ・コミッティーなるレーベルも運営する業界の実力者だ。ヒューイはそこからデビューする第1弾アクトでもあるわけで、メンフィッツの人脈を使えばいくらでも豪華な作品が作れたはずだが、待望のファースト・アルバム『Notebook Paper』は無名のプロデューサーを多数起用した野心的な内容となっている。なかでも同郷のローディーなるトラックメイカーの仕事ぶりが際立つが、こうした無名クリエイターの起用は意図的なものだったようだ。

 「地元感を保ちたかったからね。それに、あまり知られていないプロデューサーを入れたかったのさ。ローディーは凄く才能があるんだけど、マジでクレイジーなヤツだね(笑)。あと、ジェイ・ウェスもセントルイスのプロデューサーで、この2人は地元ではかなりホットだと思うよ」。

 それに加えて、ジャジー・フェイや先述のT・ペイン、スターゲイトといった大物とも「全然緊張しなかったし、バッチリやれたよ。楽しめたうえに良い曲が出来たから、素晴らしい経験だった」と気負うことなくコラボを展開。結果としてアルバムはビートもリリック面も練り込まれた幅広い内容に仕上がっている。

 「とにかく聴いてみてベストだと思った曲を入れたって感じだけど、バランスは考えたよ。特にリリックの面では同じトピックを繰り返さないようにと思ってたんだ。俺はギャルのことからストリートのことまで、どんなトピックについてもラップできるからな。それこそ、〈クレヨンについてラップしろ〉なんて言われても、がっつりキメられるぜ(笑)」。

 どの曲でも独特の低音/低温なラップがクールで耳残りするのだが、なかでも〈外で仕事してる時もオマエのことを思ってるんだぜ〉とロイドがフックを歌うセカンド・シングル曲“When I Hustle”など、女性に宛てたトラックはいずれも素晴らしい。ヒューイ自身は昔からモテるのだろうか?

 「そんなことはなかったけど……まあ、女性ファンのほうがよりサポートしてくれてたことは確かだね。“Pop, Lock & Drop It”も女のコが踊るための曲だし。でも、サード・シングルは“Tell Me This(G-5)”だから、野郎向けになるぜ」。

 こうした発言は、あくまでもストリートに根差した雄々しい意識の表れなのかもしれない。同時に、「セントルイスでクールだと思うのはチンギーとジブスだけ!」と、わざわざネリーの名前を外してくるあたり、反骨精神も十分のようだ。今後はキャンプ・ボーイズなる自身のクルーでもアルバムを制作予定らしいが、まずは力強くもリリカルな『Notebook Paper』を熱いうちに堪能しておくべきだろう。

PROFILE

ヒューイ

88年生まれ、ミズーリ州セントルイス出身のラッパー。ロウティーン時代に近所の友人たちとトラックメイクに親しみ、15歳の時にベイビー・ヒューイを名乗ってラップを始める。兄の推薦でエージェントに紹介されて楽曲制作やライヴ・パフォーマンスを開始し、地元のラジオやクラブで話題を集めていく。その後、ミックステープをきっかけとしてミッキー“メンフィッツ”ライトに見い出され、2006年にジャイヴと契約する。今年に入って、メジャー・デビュー・シングル“Pop, Lock & Drop It”が全米6位まで上昇するヒットを記録。R・ケリー“Hook It Up”への抜擢を経て、ファースト・アルバム『Notebook Paper』(Hitz Commitee/Jive/BMG JAPAN)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年08月02日 13:00

更新: 2007年08月02日 17:34

ソース: 『bounce』 289号(2007/7/25)

文/轟 ひろみ