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インタビュー

MUTYA BUENA


  UKの国民的ガールズ・トリオ、シュガベイブスで低いハスキー・ヴォイスを響かせていたムティア・ブエナがソロ・デビュー作『Real Girl』を発表した。自身の出産と育児を理由にグループを脱退してから約1年8か月。すでに先行ファースト・シングル“Real Girl”が全英2位を記録するなど、幸先のいいスタートを切っている。

「子育てで仕事を休んだりして予定が変わるのは、他のメンバーにフェアじゃないと思って脱退したの。しばらくソロ活動をする予定はなかったわ。でもレコード会社がチャンスをくれたから喜んで応えたのよ。最初はすごくナーヴァスになった。だって人気グループを抜けてソロで成功するなんて大変じゃない?
 だから新曲のヒットは本当に驚いている」。

 若いのに澄まし顔で、ムダな愛嬌を振りまかないクールなキャラがウケているシュガベイブス。しかし、ソロ作での彼女はグッと表情豊かだ。大人びた魅惑の低音ヴォーカルも健在だが、伸びのある高音にも挑んでいる。「もっと歌唱力を披露したかったの。グループ時代は低音パートだったからね。自分の声をどう使うか、なかなか実験的だったわ。私は別にマライア・キャリーじゃないけど、ちゃんと歌えてると思わない?」とムティア自身も満足そうな様子だ。

 楽曲の彩りも鮮やかで明るいムード。彼女の霧深い故郷、ロンドンのようなアンニュイな雰囲気はない。グループで大成功し、晴れてソロ・キャリアを開始。私生活では愛するパートナーと娘を手に入れ、両親も側で暮らしているという。そんな現在の充足感が作品にも表れているのだろう。自分の人生をしっかりと営んでいるという自信は、『Real Girl』というアルバム・タイトルの由来でもある。

「私はまだ若いし、正直友達と遊びにいくのも楽しい。でもやっぱり娘と過ごす時間がいまは大事よ。子持ちになったことが私をいい方向に変えてくれた気がする。まあ、ちっとも華やかな生活じゃないけど、だからこそ地に足を着けていられるわけだし。私が思い描く〈リアル・ガール〉とは、背伸びをせず現実的に自分の人生を生きている人なの。自分自身にも他人にも誠実にね。それが私にとってのリアルだし、自分もそうありたいと思っている」。

 キャッチーなサンプリングの多用も今作の特徴だ。前出のシングル“Real Girl”ではレニー・クラヴィッツの“It Ain't Over Til It's Over”を、グルーヴ・アルマダが参加&制作した80年代エレクトロ調の“Song 4 Mutya(Out Of Control)”ではアート・リンゼイの“Let's Be Adult”を、話題の歌姫であるエイミー・ワインハウスがコーラスで参加した“B Boy Bay”ではオールディーズの名曲であるロネッツの“Be My Baby”をそれぞれ引用。憧れのジョージ・マイケルともバラードでデュエットしている。プロデューサーはグループ時代からの継続組を中心に、エッグ・ホワイト、サラーム・レミといった初共演の実力者も複数参加。メッセージ性の強いコンシャスなリリックもあるが、基本的には自由かつポジティヴな心で作られたアーバン・ポップ/R&Bだ。

「どの曲もそれぞれ違う雰囲気。私は以前DJをやっていたから、どんなジャンルでもイケるのよ。それにまだ1枚目だから、あまりシリアスに作りたくなかったのよね。コンセプトも掲げず、スタジオに入ってただ好きな音を作ったわ。あえてパーフェクトに仕上げなかったから、粗削りな音も多いかな」。

 歌手であり母であり妻である彼女は、人生の山場をいくつも乗り越えているけれど、まだ22歳――。決して楽しいことばかりではない現実をまっすぐに生きる、ひとりのリアル・ガールの物語がアルバムには描かれている。

PROFILE

ムティア・ブエナ

85年生まれ、ロンドン出身のシンガー。フィリピン系の父親とアイリッシュ系の母親を持ち、8人兄妹の大家族に育つ。8歳の時からの友人だったキーシャ・ブキャナンらと98年にシュガベイブスを結成して、2000年にアルバム『One Touch』でデビュー。グループでは通算4枚のアルバムに参加し、ブリット・アウォードも獲得している。2005年3月に愛娘を出産し、12月にグループを脱退。2006年にジョージ・マイケルとのデュエット曲“This Is Not(Real Love)”を発表する。今年に入ってソロ・デビュー・シングル“Real Girl”をリリースし、全英チャート2位を記録。それに続けて発表したファースト・アルバム『Real Girl』(Island/ユニバーサル)の日本盤が8月8日にリリースされる。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年08月09日 18:00

ソース: 『bounce』 289号(2007/7/25)

文/梅岡 彩友美