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インタビュー

the samos


 SBK(スケボーキング)のShigeoが、近年moldというラップトップ・ユニットで活躍していることを知っている人は少なくないだろう。実弟であるRaymondと組んだこのユニットでの活動を通じ、Shigeoはより明確にエレクトロニカ以降のダンス・ミュージックに傾倒していることを伝えているわけだが、しかしながら、それが決して昨日今日に宗旨替えしたわけではなく、SBK時代からそうしたアマルガム状態が変わらないのはファンなら当然気付いていたことだろうと思う。

「〈ダンス・ミュージックとロックの融合〉というのを特別に意識していたわけではないですけど、もともとロックへのとっかかりがグランジとかオルタナだったんで、SBKの頃からロックのビートがどうというより〈グルーヴのある音楽をやりたい〉というイメージがあったんです。あとは、もともといろんな要素をマッチングさせることが好きなところがある、というのもありまして。だから、今回のような作品が生まれたのも凄く自然なんですよ。違うものを組み合わせること自体に意味があるというか。まあ、飽きっぽい性格なので、飽きないためにやってるってのもありますけどね(笑)」(Shigeo:以下同)。

 そんな彼が中心となったthe samosは、さまざまな音楽的エレメントを交錯させながらその化学反応を楽しむShigeoらしいユニットだ。しかしながら、このファースト・アルバム『KAFKA HIGH』にはShigeoのこれまで見えなかった側面も多く見え隠れする。例えば、フェミニンなヴォーカル。例えば、メランコリックなメロディーライン。例えば、流れるようなビート。挑発的なまでにスリリングな展開もところどころにあるが、ニュー・オーダーのようにハイブリッドかつ叙情的なサウンドを思い起こさせるのは、Shigeo自身があくまでもポップ・ミュージックであることを大前提にしているからなのかもしれない。

「もう数え切れないくらいの、持ち得るだけの音楽的要素がここには隠されていると思います。それを一つの形にするのに時間が必要だった。アルバムが完成するまでに2年くらいかかったのもそういう理由があるんです。ただ、だからといってどんな要素が入ってもいいというわけではなくて。例えば、アヴァンギャルドすぎるものはやっぱりここでは要らないかな?みたいに考えたりとか。でも、そういうものでも試してみたことで無駄にはなっていないんですよ。それに、僕らの音楽がいろんな音楽と出会うきっかけになってくれればいいなとも思っているから、ある程度はわかりやすく、というか間口を広くしておきたいんですよね」。

 M.I.T.、Raymond、Hitoshi Ohishiという他のメンバーのバックボーンをもブレンドしていくと、それこそ収拾がつかなくなるというShigeo。そうしたカオティックなところがイビツに飛び出す一方で、Shigeoは影響力を持つ立場を意識したかのような統率力も見せる。みずからBlack Budgetというレーベルを運営し、リチャード・スピッツァーのユニット=ナイト・クラブなど、世界中のユニークな才能を送り出す活動にも積極的だ。

「それ(=自身の持つ影響力)だけに歌モノであることは絶対に譲れなかったんです。だから、絶対にメロディーを活かす作り方をしました。実際、それによって僕自身のヴォーカルもあきらかに変わってきていると思うし、こういう歌が歌えるってことに自分でも驚くんです。本当はマッチョなヤツなのに(笑)、ヴォーカルは確かに甘いっていうか、フェミニンですよね」。

PROFILE

the samos
Shigeo(ヴォーカル/ベース/ギター)、M.I.T.(エレクトロ・ドラム)、Raymond(キーボード/DJ)、Hitoshi Ohishi(ミキサー/DJ)から成る4人組。2002年、SBKで活動していたShigeoが実弟のRaymondとmoldを結成。また、翌2003年にShigeoがSBKのリミックスをOhishiに依頼したことで両者の交流が始まる。同年のSBK活動休止以降、Shigeoはmoldを中心に活動。2005年にはmoldのファースト・アルバム『Paradise Lost』にOhishiがエンジニアとして参加するなど、ShigeoとOhishiがスタジオワークを共同で行うようになる。その作業を発展させ、2006年にthe samosを結成。このたびデビュー・アルバム『KAFKA HIGH』(BMG JAPAN)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年08月30日 17:00

更新: 2007年08月30日 17:34

ソース: 『bounce』 290号(2007/8/25)

文/岡村 詩野