インタビュー

CHE'NELLE


  毎年、若さと美貌を武器にした女性(男性も)R&Bシンガーは山ほど出てくるけれど、そのなかで実際にみずからリリックやプロダクションを手掛け、耳の肥えたリスナーを唸らせるだけの才能があるのはほんの一握り。今シーズンきってのアゲアゲなサマー・チューン“I Fell In Love With The DJ”でデビューしたシャネルは、そんな一握りに加われそうな素質をバッチリ備えた、注目の24歳だ。

 マレーシア生まれでオーストラリア育ち、しかも父親は中国とインドネシア、母親はオランダとインドの血を引いているという彼女は、プロフィールだけ見ても他のシンガーとは一線を画している。けれど、彼女をアーティストとして格付けるのは何よりもそのリリックだ。地元オーストラリアでは音大卒業前後からソングライターとして活動し、一度は国内チャートTOP5に入る曲も書いたことがあるという彼女。もちろん今回リリースされたファースト・アルバム『Things Happen For A Reason』も9割は自身で作詞を担当している。ただし、「アタシの歌はどれもわりと生意気なんだよね(笑)」と自負する彼女のストーリーは、駆け引きにセックスに浮気と、確かにストレートな恋愛話とはちょっと違う。

 「いろんな人に〈実際に経験したこと歌ってるの?〉って訊かれるんだけど、そういうのもあるし、そうじゃないものもあるわ。DJとクラブの裏口で……なんてしたことないし(笑)。でもこのアルバムでは、とにかく歌ってて楽しめるもの、聴く人が楽しめるものが作りたかったの。女のコを元気づけて、男子を〈うわっ!〉ってちょっと驚かせるぐらいの音楽をね」。

 ソングライターとして尊敬しているのはR・ケリーだというのも、彼女の歌を聴けば納得できるはずだ。

 「彼の書くものって、凄く会話っぽいっていうか、リスナーに語りかけるようなリリックでしょ? 一曲一曲のストーリーもわかりやすいし、メロディーも覚えやすいし。だから彼の作品は大好き。もうしょっちゅう聴いてたんだから(笑)」。

 さて、『Things Happen For A Reason』の制作陣にはショーン・ギャレットやリッチ・ハリソンといった大物も名を連ねているものの、「まだ新人だし、アタシ独特のサウンドを表現したかったから」と、比較的無名のプロデューサーを積極的に起用。シングルにはシャムが参加しているけれど、当初はゲスト・アーティストすら入れないつもりだったとか。

 「いろんな新人が出てきては、〈リッチ・ハリソンが総プロデュース!〉とか、〈ホットなシングルはスコット・ストーチ!〉とかって部分から話題になるでしょ? でもアタシはあえていろんなプロデューサーを使うことで、聴いた人が〈ああ、これはシャネルっぽい曲だね〉って思えるようなサウンドを定義付けたかった、っていうか。それにやっぱり、自分の曲を聴いた人に〈あの曲のショーン・ポール、最高だったね!〉なんて言われても、ちょっと微妙な気分でしょ(笑)? 悪いことじゃないけど、たくさんコラボを始める前に、まずみんなにアタシのサウンドっていうものを知ってほしかったの」。

 自分でもデジタル・スタジオシステムを使ってトラック制作を行っているというシャネル。次作以降は「少なくとも2、3曲はセルフ・プロデュースしたい」と意気込む。

 「これからはもっと地元のアーティストともいっしょに仕事したいな。才能ある人、たくさんいるんだから。オーストラリアもニュージーランドも、何となく世界から隔離されてるせいで(笑)、そのぶん世の中に気付いてもらうためにみんな倍の努力をしてるしね」。

 女性アーティストとして、見た目や声がイイのはあたりまえ。これからは作詞や作曲も自分でこなせる、マルチなスキルを備えていることが新しい条件……シャネルを見ているとそんな予感がしてくる。

PROFILE

シャネル
83年生まれ、マレーシア出身/オーストラリア育ちのシンガー。両親の影響で5歳の頃から歌いはじめる。高校時代にバンドで活動し、プロのシンガーを志して音楽大学に進学。並行して自宅で楽曲制作も開始し、デモ音源をウェブなどで発表していく。2005年、NYのプロデューサーであるサー・チャールズ・ディクソンが彼女の〈MySpace〉で楽曲を耳にしたことをきっかけに、キャピトルと契約を果たす。翌2006年にカニエ・ウェストの全豪ツアーにて前座を務め、その後NYに移住。今年に入ってデビュー・シングル“I Fell In Love With The DJ”を発表し、このたびファースト・アルバム『Things Happen For A Reason』(Capitol/EMI Music Japan)をリリースしたばかり。

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掲載: 2007年09月06日 18:00

更新: 2007年09月12日 16:33

ソース: 『bounce』 290号(2007/8/25)

文/石川 愛子