quasimode
生バンドとして、この時代のクラブ・ジャズをいかに新鮮に鳴らすか――プログラムでも完璧なライヴ・サウンドを実現できるいま、ジャズ・ミュージシャンたちの腕の振るいどころはそこにある。もともとは9人だったquasimodeが、平戸祐介、松岡高廣、須長和広、奥津岳という4人のメンバーにまとまっていった理由もそこにリンクしてくるという。
「ジャズ・コンボというと何かしらのホーンのメンバーがいるのが主流ですよね。でも僕らは、まずこの4人でクリエイトして、上に乗せる音は曲に応じてゲストを入れていこうという方針にしたんです。そこにはメンバーそれぞれが考える他のバンドとの差別化という視点もありましたね」(平戸)。
1年ぶりに到着した今回のセカンド・アルバム『The Land of Freedom』では、平戸と松岡が核となる曲を作ってスタジオに持ち込み、そこに須長と奥津が加わっていくという行程がとられた。前作との大きな違いはヴォーカル曲の登場。80年代からディープな歌唱を聴かせてきたカーメン・ランディ、近頃はジャズ方面での仕事も印象深い有坂美香が加わっている。
「ただ僕らは歌詞がないインストでも曲が作るイメージは十分伝えられると思っています。〈楽器が上手いんだな〉とかいうんじゃなくて、この曲にこんな意味があるのか、というところを捉えてもらえると凄く嬉しいですね」(松岡)。
「プレイするときに何か共有したイメージがあると、演奏をしながら楽器に込めていく気持ちがそうではない場合に比べて、確かに聴き手に伝わると思うんです」(須長)。
「例えば“The Man from Nagpur”ではインドのナグプールという土地で仏教の布教に尽くした佐々井秀嶺さんをイメージしました。メンバーにはそれぞれが頭に描く佐々井さん像があるわけですが、演奏ではその各人の思い入れる〈像〉が表われていると思うんです」(奥津)。
腕利きのプレイヤーが揃ったジャズ・バンドというと、楽理に突っ込んだアカデミックな方向にも行きかねないが、彼らはあくまでも心の内にあるものを音に込めるのだという。
「僕自身コードだとかそんなにわかんないです。ただ僕はレゲエをずっとやってきてたから、何かを伝えたいという気持ちの共有はあたりまえでした。逆にありがちな、〈ちょっと合わせて音を出そうよ〉みたいな薄っぺらいのは嫌で」(松岡)。
ジャズに深い精神性を求めることは、この時代のクラブ・ジャズを切り拓く大きな鍵でもあるだろう。その先人であるSLEEP WALKERの中村雅人がサックスで2曲に加わり、バンド内の体温を俄然上昇させている。
「中村さんは僕らと同じ想いでジャズをやっている方だと思います。僕らの音を自分なりに吸収し、それをスピリチュアルに放出してくれて。もう考えていた以上で、凄く感激しましたね」(平戸)。
音楽にひたすら没入する4人の求心力が、さまざまな想いと交じり、化学反応を引き起こしているのだ。
「〈自由の土地〉というアルバム・タイトルには、流行や周りの考えに左右されず自分が良いと思った道を信じてほしいという思いを込めました。そして僕ら自身も自由になりたくて。今後もひとつのところに固まらず、いろんなコラボレートをしていきたいですね」(松岡)。
録音状態の良さにも注目だ。スタインウェイのフルコンサート・ピアノを煌めかせる平戸の鍵盤捌きに敏感に反応する他メンバーの出音。一発録りならではの瑞々しい音の粒立ちも、見事にスピーカーから伝わってくる。今回の彼らは、曲自体のスピリチュアル性は強くとも決してコアに行きすぎず、キャッチーで聴きやすい。そのボトムを支える、ヴァリエーション豊かに練り上げられたリズムの味わいも聴き込んでもらいたい。
いま聴くべきジャズとは? その答えの一つがここにある。
PROFILE
quasimode
平戸祐介(ピアノ)、松岡高廣(パーカッション)、須長和広(ベース)、奥津岳(ドラムス)から成るジャズ・クァルテット。2001年に東京で結成し、都内や横浜でライヴ活動を開始する。2005年にはコンピ『Routine Jazz #07』に楽曲を提供。翌2006年にタビー・ヘイズをカヴァーしたデモ音源がロウ・フュージョンに見い出され、同レーベルから12インチ“Down in the village”を発表して一部で注目を集める。同年6月にファースト・アルバム『oneself - LIKENESS』をリリース。12インチ“Ipe Amarelo”やバンドが選曲したコンピ『Freedom quasimode Jazz Selection』の発表を経て、このたびセカンド・アルバム『The Land of Freedom』(ジェネオン)を9月5日にリリースする。